更年期の“言葉にしづらい不調”、専門的な視点で一緒に整理します【医師 三島みさ子】

新しい街のクリニックで多様な患者さんに向き合う
ー先生が医師、そして産婦人科医を目指されたきっかけからお聞かせください
父が外科医だったこともあり、幼い頃から医師という職業に自然と親しみを持ち、憧れを抱いていました。
医学部卒業後、進路としてはさまざまな診療科がある中で、当初は外科系を志望していました。ただ、当時の外科はまだ男性医師が中心で、女性にとってはやや閉鎖的な雰囲気もあり、進むべきか迷いがありました。
一方で、女性医師であることがプラスに働く分野もあるのではと考えるようになった頃、産婦人科の先生方に声をかけていただいたことが大きな転機となりました。患者さんがすべて女性であるという点も魅力的で、自然とこの道を選ぶことができました。
研修医時代から、同性であるからこそ患者さんと打ち解けやすく、信頼関係を築きやすいと感じていたこともあり、この選択は自分にとって正しかったと今でも感じています。
ー病院勤務を経て、現在は「晴海ウィメンズクリニック」の院長に就任されています。新しい街、新しいクリニックはどのような患者さんが多いのでしょうか?
当クリニックは、オリンピック選手村跡地に新しく開発された街「晴海フラッグ」に位置しています。新しいマンションや商業施設が次々と建設され、この1年ほどで住民も急増し、少しずつ街としての雰囲気が整ってきました。

(https://www.harumi-women.com/)
来院される患者さんの層は非常に多様です。若い世代では、すでにお子さんがいて二人目をご希望の方、あるいは結婚を機に妊活を始めようとされるご夫婦などがいらっしゃいます。その一方で、地方から移住されてきた高齢の方もいらっしゃいます。
近隣の勝どきには古くからお住まいの方が多く、豊洲など周辺地域からも「女医のいるクリニック」を探して来院されるケースが増えています。小学校低学年のお子さんから80代の方まで、幅広い年齢層の方々を診療する中で、この街の多様性を日々実感しています。
街の“新しさ”と“昔ながら”が入り混じるこのエリアで、多様な背景を持つ患者さんと出会えることは、とても刺激的でやりがいのある環境だと感じています。

患者さんの話をじっくり聞いて不調の背景をひも解く
ー多様な患者さんと向き合う中で、診療で心がけていることはどんなことでしょうか? 特に更年期の女性に対しては、どのような点に配慮されていますか?
更年期の女性は、ご自身が「何に一番困っているのか」をうまく言葉にできず、「なんとなく不調」「なんとなくだるい」といった、漠然とした訴えとして現れることが多いと感じます。
そのため、特に初診の際には時間をかけて丁寧にお話を伺い、患者さんご自身の中で整理しきれていない不調の背景を一緒にひも解いていくよう心がけています。
頭痛、肩こり、ホットフラッシュ、月経不順など、どれも些細なことに見えるかもしれませんが、そうした症状を一つひとつ丁寧に確認しながら、全体像を把握することを大切にしています。


ー患者さんにとっては「話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になる」ということもありますよね。先生ご自身は患者さんの話を聞く中でご苦労されることはありますか
患者さんによって、困りごとの捉え方や優先順位は本当にさまざまです。そのため、患者さんの真のニーズを見極めながら、適切な対応を心がけていますが、やはり難しさを感じる場面はあります。
たとえば、A・B・Cといくつかの問題があった場合、医師の立場から見るとまずはAとBへの対応が重要だと考えて提案しても、患者さんご本人にとっては、実はCが一番つらく、真っ先に解決してほしいと感じていることがあります。
また、お話を丁寧に伺っていく中で、ご家族との関係や職場での人間関係など、婦人科の診療領域を超えるような内容に話が広がっていくこともあります。そういったときに、どこまで踏み込んでお話を聞くべきか、またどのような助言がその方にとって適切なのか、いつも慎重に考えています。
医師として明確な方針を示すべきか、それともまずはしっかり相手の思いを受け止めるべきか。そのバランスを見極めながら向き合っていくことに、難しさと同時にやりがいを感じています。
「更年期」はこわくない、医師として前向きに乗り越えるためのお手伝いを
ー更年期の患者さんは、具体的にどのような悩みで来院されることが多いのでしょうか?
更年期に現れる症状は非常に多様ですが、「なんとなく不調」といった漠然とした訴えに集約されます。ホットフラッシュ(いわゆるほてりや発汗)はよく知られているものの、実際にはそれを主訴とする方は多くない印象です。
むしろ、めまいや頭痛、倦怠感、不眠、情緒不安定、仕事のパフォーマンスの低下といった、一見更年期と関連がなさそうな症状を訴える方が多くいらっしゃいます。また、月経不順や不正出血をきっかけに受診され、その後に「実は最近、疲れやすくて…」といった相談につながることもあります。

症状が漠然としていると、婦人科への受診をためらう方も多いように感じますが、「気軽にご相談いただいて大丈夫です」ということを、私たちからもしっかりお伝えしていきたいと思っています。
ー「更年期かな?」と感じた時に、受診する上で何かポイントがあれば教えてください。
更年期障害の症状は非常に多岐にわたるため、「何が一番つらいのか」をご自身でうまく言葉にできない方も多くいらっしゃいます。
受診の際には、まとまっていなくても構いませんので、気になることを思いつくままにお話しいただければ大丈夫です。どんな些細なことでも結構ですし、話し方や言葉の選び方から、その方に合った治療のヒントが見つかることもあります。
また、婦人科を受診される際にひとつポイントとなるのが、月経周期との関係です。たとえば、「月経の前後に症状が強くなる」「排卵期に特に体調が悪くなる」といった変化があれば、それを一緒にお伝えいただけると診断の助けになります。
ー更年期の治療で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
これまでに、ホルモン補充療法や漢方治療を多くご提案してきましたが、なかでも印象的だったのは、治療前には仕事や趣味への意欲が低下していた方が、治療をきっかけに不眠、中途覚醒などの症状が改善し、表情が明るくなり、再び生き生きと日々の生活を楽しむようになったケースです。
そうした変化をそばで見るたびに、医師としてのやりがいを感じますし、更年期を前向きに乗り越えるためのお手伝いができていることを実感します。
ー更年期に悩む女性へのメッセージをお願いします
更年期は、誰にでも訪れるごく自然なライフステージです。「更年期」はすべての方にありますが、「更年期障害」と診断されるほど強い症状が出るケースは決して多くはありません。過度に怖がったり、つらいものと決めつけたりせずに前向きに向き合ってください。
月経のある世代はホルモンバランスの影響を受けやすいですが、更年期に伴うさまざまな症状には、きちんとした対処法や治療法があります。ホルモンの波に振り回されすぎず、できるだけ心をやわらかく保ちながら、日々を大切に過ごしていただけたらと思います。
また、健康管理の一環として、定期的に人間ドックや健康診断を受け、ご自身の健康をしっかりとメンテナンスしていくことも大切です。早めに体の変化に気づくことで、より安心して毎日を過ごしていただけるはずです。
そして、もしもつらい症状や気になる変化があれば、どうか一人で抱え込まずに婦人科にご相談ください。更年期の時期であっても、ご自身らしく、いきいきとした毎日を送ることは十分に可能です。私たちはそのお手伝いができればと願っています。

「温泉」で心身をリフレッシュ
ー最後に先生ご自身のリフレッシュ方法やおすすめがあれば教えてください
「温泉」が好きで、休日は近場の温泉に行くことが多いです。
忙しい毎日の中で、温泉でゆっくりと体を温める時間は心身のリフレッシュに繋がっています。体を温めることは更年期の女性にもおすすめです。
また、年齢を重ねても無理なく続けられる運動も大切です。ストレッチや軽い運動、ダンス、ヨガ、太極拳など、自分に合った方法で体を動かすこともお勧めします。
(取材:2025年3月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。