もっと自分の体に目を向けてほしい。まずは自分を守る知識と力を知ることから【医師 内田 美穂】

更年期
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自分のからだを知ることからはじめて 未来を守る一歩をサポート
産婦人科医 内田 美穂

内田 美穂

フィデスレディースクリニック田町 院長

産婦人科専門医、母体保護法指定医師、日本医師会認定産業医

医師免許を取得後、都立駒込病院で内科系研修医としてがん診療を学び、聖路加国際病院皮膚科を経て順天堂大学医学部付属順天堂医院産科・婦人科へ入局。「悪性腫瘍」「妊娠・出産」「不妊治療」「女性のヘルスケア」などの診療経験を経て、2019年「フィデスレディースクリニック田町」を開業。現在はレディースクリニック2院の経営と診療を行う。

女性のライフステージに寄り添える産婦人科医を目指して

ー産婦人科を目指されたきっかけを教えてください

もともとは、がんの治療に関わりたいという思いから内科医を志し、2年間は内科で診療を行っていました。ただ、内科の世界は非常に幅広い知識と高い分析力や論理的思考が求められていると感じ、それよりももう少し手を動かしながら関わっていける外科的な分野のほうが自分に合っているのではと考え、産婦人科に興味を持つようになりました。

産婦人科というと、お産に魅力を感じて志す方も多いのですが、私の場合は少し違っていて、女性の健康全体を幅広く診ることができる点に魅力を感じました。妊娠・出産はもちろんのこと、感染症や悪性腫瘍の診断・治療、そしてライフステージに応じた身体や心の変化に寄り添えるところなど、総合的に女性を支えられる診療科だと思っています。

産婦人科を選び、気がつけばもう20年以上この分野に携わっていますが、今もなお、奥深くてやりがいのある仕事だと感じています。

ー現在のクリニックはどのような経緯で開業されたのでしょうか?

今のクリニックを開業したのは、5年前になります。それまでは大学病院や関連する医療機関に勤務し、さまざまな症例や経験を積んできました。ただ、産婦人科という特性上、どうしても当直勤務が避けられず、常に高い集中力と体力が求められる環境でした。

家族のケアをしながら仕事をする中で、自分のライフスタイルにより合った働き方を見つけたいという気持ちが次第に強くなっていきました。

一時期は都内の大手婦人科クリニックで院長を務める機会にも恵まれ、貴重な経験をさせていただきました。院長として診療を続けるなかで、クリニックのスタンスや経営方針など、「もっと自分なりの信念や価値観を大切にした医療を届けたい」という想いが強くなっていきました。患者さん一人ひとりと丁寧に向き合い、その方の背景や悩みに寄り添いながら診療できる環境をつくりたい、そんな思いから開業という選択をしました。

私が根本的に大事している事は、「人と人との信頼関係」です。その「信頼」という言葉をクリニック名にしました。今は、自分のペースで、そして自分らしいスタイルで診療ができるこの場所に、とてもやりがいと満足感を感じています。

2019年 「フィデスレディースクリニック田町」を開業
https://fides.clinic/

自らの経験と産婦人科医の知見に基づき女性支援のための発信を

ークリニックでの診療の他に、企業向けのセミナーや講演、Youtube等での発信などにも注力されているようですが、どのような想いで活動されていますか

「企業向けWell-being経営サポート」として、企業の従業員向けのセミナーや医師による相談窓口の提供をおこなっています。

私自身、いろいろな悩みや問題を抱えながら働いてきた経験があるので、特に女性がキャリアを継続する難しさをよく実感しています。家庭の事情やパートナーとの関係、仕事でのストレス、妊娠や出産といったライフイベントに影響されやすいのが、今の社会の現実です。

Youtubeでの発信に関しては、診療をしている中で、どうしても1対1のやり取りに限界を感じていました。同じ説明を何度も繰り返す非効率さや、患者さんがあとから思い返せるツールの必要性を感じて、動画での発信を始めました。

特に、日々多くの診療に関わる中で、間違った避妊法を選んでしまっている現状を目の当たりにしています。本来であれば性教育の中で学ぶべき内容ですが、大学生や社会人になったばかりの世代を中心に、本当に必要な情報が届いていないと感じています。

将来の妊娠に影響しないためにも、正しい避妊の知識を届けたい。そんな想いから、広く正しい情報を発信することに意義を感じています。

ー先生ご自身がクリニックを開業、経営される中で変わったことはありますか

経営者としてスタッフを雇うようになってからは、長く安心して働ける環境づくりの難しさと大切さをより感じるようになりました。

開業前は、都内に複数展開している大手の婦人科クリニックで院長として責任を持って働いていたつもりでしたが、実際に経営者になってみて初めて、オーナーと雇われ院長の違い、そして経営の重みを実感しました。

特に大きいのはスタッフの存在です。理想とするクリニックを形にするには、教育や日々のサポートも含めて、スタッフとの信頼関係が欠かせません。

ただ、医療の現場はどうしても女性が多い職種なんですよね。看護師さんや受付の方など、ほとんどが女性です。そうすると、パートナーの転勤や出産・育児といったライフイベントの影響で、どうしても仕事を続けにくくなる場面が出てきます。女性が長く働き続けるというのは、やはり簡単ではありません。

だからこそ、私が企業でセミナーを行うときには、経営者の立場や悩みにも共感できるんです。「女性には、たとえ育児などで一時的に職場を離れることがあっても、できるだけ長く働き続けてほしい」「更年期などで不調があっても、医療の力を借りながらなんとか乗り越えて前向きに働いてほしい」という気持ちは、私自身がスタッフを雇う立場になってからより一層強くなりました。

今、女性の健康課題が注目されているのも、そういった現場のリアルが少しずつ可視化されてきた結果なのかなと感じています。

女性がいきいきと働ける環境づくりをサポート

ー企業のセミナーや講演会ではどのようなテーマでお話しされていますか

ご要望いただくテーマとしては、大きく分けて「生理痛・PMS」または「更年期」ですね。基礎的な情報に加えて、周囲ができるサポートについても関心を持たれるケースが多い印象です。なかでも、最近は「更年期」に関するご相談やニーズが特に増えてきていると感じています。

その背景には、月経やPMSについては「あるのが当たり前」と思われがちで、ご本人たちもそれを病気として捉えていない場合が多いことがあるのかもしれません。「少しつらくても我慢すれば何とかなる」と感じている若い方が多く、まだまだ積極的に知識を得たり、周囲のサポートを受けようとする方は限られている印象です。

一方で、更年期の症状に関しては、実際に日常生活に支障をきたすほどつらい思いをされている方が多く、切実な問題としてとらえているため、情報への関心や反応がとても高いんですね。

また企業側にも、女性がライフステージに応じて長くいきいきと働ける環境を整えたいという思いがあり、更年期に関する理解やサポート方法への関心が高まっているように思います。

実際、当院にも更年期の症状で受診される方は多く、心身の不調や周囲との人間関係など深刻な悩みを抱えて相談に来られるケースもあります。更年期の診療は、時間をかけてじっくりお話を伺う必要があり、症状も多岐にわたるため、他の病気との区別も含めて丁寧な対応が求められます。

私はまず、患者さん一人ひとりのお話にしっかり耳を傾け、その方にとって納得のいく選択肢を一緒に探していけるよう心がけています。

ー中高生への「性教育」の分野にも力を入れていらっしゃるとお伺いしました

先ほどもお話ししたように、日々の診療の中で中絶を希望される方が避妊について正しい知識を持っていない場面に多く直面し、性教育の重要性を強く感じるようになりました。また避妊法の知識だけではなく、SNSを通じた性暴力やデートDVなど、「人との関わり方」にもつながる正しい知識が必要です。

現在は、東京都の取り組みで中学校や高校へ出張講義を行う活動にも参加しています。授業の内容には、LGBTQやマスターベーション、性暴力の防止といったテーマも含まれ、いわゆるこれまでの「性教育」よりも多岐にわたる内容を含んでいます。

ただ、こうした授業が一部の学校に限られているのが現状で、もっと多くの子どもたちに届いてほしいと感じています。

ー読者の女性たちへメッセージをお願いします

病気が見つかるのが怖いから、検診を避けているという方もいらっしゃると思います。でも、病気は誰でもなる可能性があるものです。だからこそ、早期に発見して早期に治療することがとても大切です。

まず自分の体を知ることから始めてほしいと思います。たとえば、定期的な婦人科検診を受けること、生理や体調の変化に意識を向けること。さらに、毎日の食事や生活習慣も、病気の予防には大きく関わってきます。

更年期に関する情報もYoutubeで発信

私自身、近年は「予防医学」に強い関心を持つようになりました。牛肉や豚肉などの赤身肉や加工食品の過度の摂取を控える、塩分を控える、野菜を意識的に多めに摂取するなど、できることは日常にたくさんあります。また、ストレスはゼロにはできませんが、自分なりの発散方法を見つけておくことも大切です。

YouTubeやSNSなどでも情報発信をしていますのでぜひ気軽にアクセスしてみてください。自分の体に向き合い、できることから少しずつ始めていく。その積み重ねが、未来の健康につながると信じています。

静かな海の中で自然と向き合う時間がリフレッシュに

ー内田先生のリフレッシュ方法を教えてください

マリンスポーツをすると気分が晴れます。

以前はヨットにも乗っていましたが、ダイビングもいいですね。海に潜ると、携帯電話も鳴らず、周囲の音もなくなって、目の前の魚たちに集中できます。海の中の程よい緊張感も、日常の雑多なことを忘れられる貴重な時間です。

近場では千葉や伊豆で潜ることが多いです。自然と向き合うことで、自分自身の気持ちも整えられるように感じています。

(取材:2025年1月)


本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。

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