生理の痛みやつらさは当たり前ではない。“我慢”せず専門家と一緒に最適な治療を【医師 柴田 あずさ】

目次
父の背中を追って、たどり着いた産婦人科医への道
ー柴田先生が産婦人科医を目指されたのは、どのような経緯からでしょうか
正直なところ、私は最初から医師を目指していたわけではありませんでした。
祖父は小児科医、祖母と父は産婦人科医という家庭に育ち、実家は病院だったので医療が身近にある環境ではありましたが、「自分が医師になる」という具体的なイメージを当時はまったく持っていませんでした。
よくある「誰かの命を救う場面に立ち会って医師を志した」といったようなドラマチックなエピソードはなくて、本当にごく普通に学生生活を送っていました。
そんな私が医師という道を意識し始めたのは、23歳のとき、就職活動をしていた頃でした。ちょうどリーマンショックの影響で就職が難しい時期でもあり、「自分には、これといった強みがない」と痛感したことが大きな転機になりました。社会に出ることを目前に、自分の将来を真剣に見つめ直すきっかけになったのです。
自分の人生をかけるにふさわしい仕事とはなんだろうか、と考えたときに思い浮かんだのが、父のように医師として社会に貢献する生き方でした。父の仕事を継ぐことが、父のためにも自分のためにも社会のためにも価値のある行動だと考え、そこから本気で医師を目指すようになりました。

(https://www.mieru-ladiesclinic.com/)
ー 「Mieruレディースクリニック」開設の背景にはどのような経緯があったのでしょうか
実は、開業に至ったのは少し予定外のタイミングでした。
医師になり7年目のときに、父が倒れたのです。もともと「いつか父の仕事を継ぎたい」という思いは心のどこかにありましたが、突如その選択を迫られることになりました。
当初は、医師としての経験がまだ浅く「7年目で継ぐのは早すぎるのでは」と迷いもありました。それでも、「自分は何のために医師になったのか」と改めて考えたとき、このタイミングを逃せば、もう二度と開業のチャンスは巡ってこないかもしれない。そう思い、覚悟を決めて継ぐことを決断しました。
大学時代の同期や先輩にも相談を重ねましたが、ちょうど同じ時期に実家のクリニックに戻る人が多くいたことも、背中を押してくれました。専門医を取得した後に、大学病院からクリニックに移るという流れは、実はとても自然なものなのだと感じました。
また、私自身も第一子の出産を控えて産休に入る時期だったため、診療の現場から少し離れるタイミングでもありました。現場での仕事は一時的に減ったものの、その分、開業や経営について学ぶ時間を確保できたことは、大きな意味があったと感じています。
「オンライン診療」の活用で無理なく通えるクリニックを目指して
ー クリニックのホームページに『「日常の中でふっと立ち寄れるレディースクリニック」を目指しています。』とありますが、受診のハードルを下げる工夫はありますか
当院は、幅広い年代の方々をサポートできる地域に根ざした存在でありたいと考えています。
継続的に治療を受け、健康な状態を保つためには、「通いやすさ」「受診しやすさ」がとても重要です。たとえば、待ち時間が少なかったり、予約が取りやすかったりといった点が、患者さんにとっての通いやすさにつながります。
当院では、患者さんが思いたったときに気軽に予約できるように、現在は祝日をのぞいて毎日診療を行っています。さらに、待ち時間を減らすために予約制を導入しており、予約された方を優先してご案内しています。もちろん、直接ご来院いただいた場合にも対応しており、空きがあれば当日のご予約も可能です。受診をご希望の方には、できる限り柔軟に対応しています。
また、「オンライン診療」にも対応していて、予約から診察、支払いまでをすべてオンラインで完結できる仕組みを整えています。※初診は対面での受診が必要
通院にかかる時間的な負担を減らし、「短時間で適切な治療を受けて帰る」というような、気軽に受診できるクリニックを目指しています。患者さんが無理なく、そして安心して通い続けられる場所でありたいと考えています。


ー「オンライン診療」はどのように活用してほしいですか
オンライン診療には、通院せずに診療を受けられる手軽さがあります。移動時間や待ち時間がかからず、日々の生活に無理なく医療を取り入れられる点は、患者さんにとって大きなメリットです。
ただし、「手軽に受けられる=診療が簡易になる」というわけではありません。限られた時間の中で正確な診察や判断が求められるため、オンラインならではの難しさも感じています。
当院では、対面診療と同じように丁寧な医療を提供することを大切にしながら、できる限りフレキシブルに対応するよう心がけています。診療時間の目安は、再診の場合でおおよそ5分程度です。ただし、不正出血がある場合など、症状によっては検査が必要になることもありますので、その際はご来院いただいたほうが良い場合もあります。
一方で、オンライン診療にはいくつかの注意点もあります。たとえば診察後にお薬を処方する場合、オンライン薬局を通じて配送されるため、すぐに手元に届かないことがあります。
電子処方箋を利用すれば、当日中にお近くの薬局でお薬を受け取ることも可能です。ただし、電子処方箋の仕組みがまだ十分に浸透していないことや、薬局側で不具合が発生することもあり、うまく受け取れないケースが1~2割程度の割合で生じているのが現状です。
「すぐに薬を受け取れる」と期待していたのに受け取れず、ストレスを感じることもあるため、オンライン診療後のお薬の受け取りについては、時間に余裕を持ってご利用いただくことをおすすめしています。
そのため、オンライン診療はあくまで日常の中で無理なく医療を取り入れる手段のひとつとして活用していただけたらと思います。症状や状況によっては、対面診療と組み合わせることがより安心につながる場合もあります。
どんなときも、患者さんが安心して相談できる場を提供することが私たちの目標です。ライフスタイルに合わせて、オンラインと対面をうまく使い分けていただけたらと思います。

様々な選択肢を提示して患者さんに決めてもらう
ー診療時に心がけていることを教えてください
診療の際には、まず患者さんのお話をしっかりと伺うことを大切にしています。お悩みやご希望を丁寧にお聞きしたうえで、その方にとって納得のいく治療方針を一緒に考え、決めていくことを心がけています。
治療の選択肢がいくつかある場合は、それぞれのメリット・デメリットを丁寧にご説明し、最終的にはご本人に選んでいただくのが基本です。ただし、「どれを選べばいいか分からない」「先生に決めてほしい」といったご要望をいただくこともあり、その際は医師としての経験と知見をもとに、最適と思われる方法をこちらからご提案することもあります。
また、診療の中では固定観念にとらわれず、広い視野で患者さんの声に耳を傾けることも意識しています。人によって感じ方や価値観は異なります。「こうあるべき」と決めつけるのではなく、一人ひとりにとっての“最善”を一緒に探していく姿勢を大切にしています。

ーやりがいを感じる時はどのような時ですか
産婦人科医の仕事は、本当に大きなやりがいがあります。
たとえば、無事に赤ちゃんを迎えられたときや、がんの患者さんの経過が順調なとき、また症状が改善して患者さんが元気になっていく様子を見られたときなど、自分の関わりが“目に見える成果”として実感できると、やっぱりうれしいですね。
そして何より、患者さんからの「ありがとう」の一言がいつも励みになっています。
大学病院では、がんなどの重い疾患を扱うことも多く、患者さんと長く向き合うこともありました。その分、治療がうまくいったときの達成感や手応えも大きく、信頼関係を築きながら丁寧に関われることにやりがいを感じていました。
一方で、クリニックはより身近な医療の場である分、初診のみや薬の処方のみで終わるなど、患者さんとの関わりが比較的短期的になるケースもあります。特に若い方の中には、ご自身の気持ちをうまく言葉にできなかったり、受診のハードルが高く感じられる方もいらっしゃるように思います。
そのため、自分の診療がどれだけ患者さんに届いているのか、実感しづらいと感じることもあります。それでも、継続して通ってくださる中で「楽になりました」「良くなりました」とお声をいただけると、やはりこの仕事を続けていてよかったと感じます。
月経困難症は婦人科受診で治療できます
ー生理やPMSで受診される方はどのようなお悩みをお持ちですか
PMS(月経前症候群)や月経困難症のご相談が多いです。
その中で、最近ではオンラインで購入できる保険適用外の低用量ピルを利用する方が増えていると感じています。ピルの存在が広く知られるようになったのは喜ばしいことですが、自己判断で使用されることには不安も感じています。
たとえば、「月経困難症に効く」といったWeb広告をきっかけにピルを購入し、実際に使ってみたものの、期待していたほどの改善が得られず当院を受診される方もいらっしゃいます。
自費で購入できる低用量ピルは本来“避妊”を目的とした薬であり、月経困難症に対する臨床試験は行われていないのが実情です。月経困難症の改善を目的に使うには、必ずしも適切な選択とは言えない場合もあります。
月経困難症の症状でお困りの方には、保険診療で処方されるピルの使用をおすすめしています。婦人科で月経困難症の治療を目的に処方される低用量ピルであれば、臨床試験で効果が確認されており、科学的なデータもきちんと蓄積されています。さらに、保険が適用されるため、自己負担を抑えて治療を受けることができます。
月経困難症は「体質」ではなく「病気」です。つらい症状があるときは、自己判断で自費のピルを使い続けるのではなく、一度しっかり婦人科を受診し、ご自身に合った治療を選ぶことが大切だと考えています。

ー生理・PMSで悩む方へのメッセージをお願いします
生理のことで、少しでも「つらいな」「これって普通?」と感じることがあれば、どうか気軽に相談に来てください。
生理は思春期から何十年も続くものなので、つい「これが当たり前」と思い込んでしまいがちです。「多量の出血や強い腹痛があるのは当然」「痛み止めを飲んで我慢するしかない」そんなふうに思っている方も多いかもしれません。でも、本当はもっとラクに過ごせる方法があります。
私自身、妊娠して生理が止まったときに「生理がない生活って、こんなに快適だったんだ」と実感しました。それまで当たり前だと思っていた毎月の負担が、実はすごく大きかったと気がつきました。
だからこそ、「我慢するのが当たり前」と思わずに、あなたにとっての最適な治療法やケアを一緒に考えていけたらと思います。
最近では、女性が社会で活躍する場面もどんどん増えています。しかし、生理痛やPMSのつらさで仕事を休まなければならないこともあり、経済的な損失につながることもあります。生理に関する負担を少しでも軽くできれば、日常生活も仕事も、もっと前向きに過ごせるようになるはずです。
「こんなこと相談していいのかな?」と思うようなことでも、まったく問題ありません。生理やPMSについて、どんな小さなことでも気になったらまずは婦人科へ相談に来てください。
子どもと愛犬、家族との時間がリフレッシュに
ー先生のリフレッシュ方法を教えてください。
日々の疲れを癒すリフレッシュ方法として、大切にしているのはお風呂の時間です。
まずは子どもと一緒にお風呂に入り、わいわい遊んだあとは、夫に子どもを任せて、ひとりでゆっくりと湯船に浸かります。静かな空間で、何も考えずに過ごす1時間ほどの時間が心身ともにリセットされるひとときです。
また、自宅では犬を飼っていて、その存在にも日々癒されています。子どもと犬が楽しそうに過ごす姿を眺めていると、それだけで気持ちが和らぎます。慌ただしい毎日の中でも、こうした何気ない日常の時間が私にとって大きなリフレッシュになっています。
(取材:2025年3月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。