短時間の受診でも心身の負担を軽減できます。女性特有の悩みに、職場と周囲の理解を【医師 北川 浩明】

健やかな命を育むために産婦人科医を選択
ー産婦人科医を志したきっかけを教えてください
医学生時代に明確に目的や目標があったわけではありませんが、次の世代を育てる、健康な世代を育成していくことに関心があり産婦人科医への道へ進むことを決めました。
医師として高齢者の健康障害や癌を治すという方向性もありますが、未来の世代を健やかに産み育てることに貢献したいという思いで今に至っています。
ー産婦人科医として長年ご活躍されていますが、これまでの病院勤務時と比べて、クリニックでの診療にはどのような違いがありますか
赤坂虎の門クリニックでの勤務は、私にとって大きな転機となりました。病院勤務で積み重ねてきた経験を活かしつつ、より身近な立場から、患者さんの健康的な生活に貢献したいという想いを持って、クリニックでの診療に取り組んでいます。
若い頃は、とにかく体力勝負で、自分にできることを全力でこなす毎日でした。分娩を担当するのはもちろんのこと、がんの患者さんを診る女性外科医としての業務や、婦人科の外来など、さまざまな分野を幅広く経験してきました。
大学病院や虎の門病院のような紹介中心の医療機関では、患者さんはすでに診断がついた状態で来院されます。そのため、主な役割は治療や手術の方針を決め実施することです。患者さんとじっくりお話しながら症状を丁寧に聞き取る、という機会は多くありませんでした。
一方、現在のクリニックでは、生理不順や生理痛、不正出血など、日常生活の中で起こる不調やトラブルに悩む方が多く来院されます。ここでは、メスの技術よりも、問診の質やカウンセリングの深さが、患者さんの健康や満足に直結すると感じています。
一から丁寧にお話をうかがい、診断を組み立てていくその過程に、これまでにない新鮮さとやりがいを感じています。そして、これまでの経験や知見があるからこそ、今の診療にも自信を持って臨めています。
女性の体は非常に複雑にできており、昼夜を問わずホルモンの影響を受けながら、卵巣や子宮が絶えず働いています。女性はそうした体のリズムと向き合いながら、日々の生活を送っています。
ストレスによる体調の変化や生理にまつわるさまざまな問題、微生物による感染の危険、子宮や卵巣の腫瘍、避妊や月経調整の工夫、不妊の悩み、そして何より妊娠の診断や妊婦健診など、患者さんが抱える課題は本当に多様です。来院される一人ひとりの悩みや症状に真摯に向き合い、皆さまが健やかな生活を送れるよう、しっかりとサポートしていきたいと考えています。

時間の許す限り話を聞いて、より良い診療につなげる
ー日々の診療のなかで、心がけていらっしゃることはありますか
患者さんからご相談いただいたお悩みを解決することは、医師として当然の責務です。ただ、それ以上に私が大切にしているのは、可能な限り時間をかけて、お話をじっくりうかがうことです。
診断や治療方針を考える際には、「もし自分がこの方のパートナーだったらどうするか」「親御さんの立場だったらどんな判断をするか」といった視点を常に意識するようにしています。これは医師になりたての頃から一貫して大切にしてきた姿勢です。
もちろん、エビデンスに基づいた診療を行うのは医療の基本ですが、ただ「仕事として診る」というような距離のある関わり方は決してしたくないと考えています。
いかに患者さんに心を開いていただけるか、いかに安心して信頼していただけるか。その積み重ねこそが、より良い診療に繋がっていくのだと思っています。

ー産婦人科医としてやりがいを感じる瞬間や、印象に残っているエピソードがあれば教えてください
診療を通じて、患者さんに心から喜んでいただいたり、「ありがとう」と感謝の言葉をいただいたりするたびに、私のほうこそ感謝の気持ちでいっぱいになります。そうした出会いのひとつひとつが、私のやりがいにつながっていると感じています。
自分にできる社会貢献はこの仕事だと感じていて、だからこそ強い思いを持って取り組んでいます。誰かの役に立ちたいという気持ちや、自分の役割を果たしたいという思いが、ずっと変わらず原動力になっています。
やりたいことを仕事にできているというのは、本当に幸せなことです。自分の情熱を注げる仕事だからこそ、迷わずこの道を歩み続けてこられたのだと実感しています。
以前勤めていた病院を含めると、なかには三世代にわたって通ってくださるご家族もいらっしゃいます。「先生に取り上げてもらったんです」とお話しくださる方が来院された時には、医師としての歩みが世代を超えてつながっていることを強く感じます。
この仕事をしていると、そうした“世代を超えたつながり”に出会える機会があり、それがとても嬉しく、何よりありがたいことだと感じています。


月経に伴う不調への理解と職場環境づくりの大切さ
ー生理やPMS(月経前症候群)など、月経にまつわる症状で受診される方には、どのような特徴がありますか
生理痛に悩んで来院される方が一定数いらっしゃる一方、最近では、どちらかというと「月経前の気分の不調」によって日常生活に支障を感じている方のほうが多い印象です。月経そのものの症状とは少し異なりますが、ホルモンバランスの乱れによる不正出血などで来院される方もいます。
受診される方の年齢層としては、クリニックの立地※の影響もあり、特に20代後半から30代の働く女性の方が中心です。また少数ですが、中学生・高校生といった思春期の方もいらしています。
※「赤坂虎の門クリニック」は赤坂インターシティAIR 地下1階(東京都港区赤坂一丁目)に位置しています。
ー患者さまはどのようなきっかけで来院されるのでしょうか
ご自身の体調の変化や不調に気づき来院される方もいらっしゃいますが、多くは周囲の方の影響や情報によって受診を決意されるようです。たとえば、職場の同僚がピルを服用していることを知って関心を持たれたり、メディアやSNSなどでの情報をきっかけに受診されることもあります。
「産婦人科はなんとなく受診しにくい」と感じる方もいらっしゃると思いますが、実際は決して敷居の高い場所ではありません。体調の変化に気づいた時点で、気軽に相談していただきたいと思っています。
ー月経に関連する症状への基本的な治療法としては、どのようなものがあるのでしょうか
多くの場合、低用量ピルやホルモン剤(黄体ホルモン療法)を用いて症状をコントロールしていきます。どちらを選ぶかは、患者さんの希望や体質、症状の程度によって異なります。
たとえば、40代以上の方や子宮内膜症が強い方には黄体ホルモン療法が適しているケースが多いです。一方、特に病気がない方には、ピルを服用することで月経が安定し、日常生活の調整がしやすくなります。
ここ10年ほどで、低用量ピルの処方数は大きく増えており、社会全体としての月経に対する意識も少しずつ変わってきたと感じています。

ー ピルには副作用があるとも言われますが、実際にはどうでしょうか
実際のところ、当院でも継続的に通院されている方も多く、ピルが合わないと感じる方はそれほど多くはありません。
ただし、中には服用中に予定外の出血が見られたり、抑うつ気分などの副作用が出て薬の変更が必要になる場合もあります。
ー生理痛やPMSで悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
悩みは誰にでもあるものです。自分ひとりで抱え込まず、つらいと感じた時は気軽に相談してほしいと思います。生理やPMS(月経前症候群)の不調は、「病気ではないから」と我慢されがちですが、生活に支障が出ているなら、それは十分に解決すべきことです。
また、職場で女性の部下を持つ方には、こうした体調の変化について理解を深め、必要に応じて休みを取りやすい環境を整えていただけたらと思います。生理やPMSについては、男性だけでなく、女性同士でも理解に差がある場合があります。「私は平気だったから」といった言葉が、知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまうこともあります。
まずは、「つらいことをつらいと言っていい」という空気づくりが大切です。受診にかかる時間は、昼休みなどを活用すれば30分〜1時間ほど。我慢して中途半端に働くより、しっかりケアを受けて元気に仕事に向き合う方が、結果として効率も生産性も高まります。

仕事の充実と趣味の時間を楽しむことでリフレッシュ
ー北川先生のリフレッシュ方法を教えてください
リフレッシュといっても、仕事とプライベートで少し意味合いが違うかもしれませんね。
仕事の面では、患者さんが笑顔で帰っていかれる瞬間や、自分が思い描いた通りに治療が進んだときに、とてもやりがいを感じます。産婦人科は「自然科学」を扱う分野でもあるので、医学の理論通りにきれいに結果が出たときは、本当に嬉しいですね。そういった達成感が、私にとっての仕事上のリフレッシュになっていると思います。
プライベートでは、友人たちとの時間や、孫たちの笑顔に癒されることが多いですね。あとはクラシック音楽を聴いたり、音楽会や美術展に行ったりする趣味の時間も大切にしています。
実は鉄道が好きで、遠出をしてローカル線に乗ったりするのが、私にとっての楽しい時間です。列車に乗っている時間も好きですし、旅先での出会いや風景も楽しみの一つです。
(取材:2025年3月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。