出生前診断のスペシャリストとして命の選択と向き合う 知ってほしい出生前診断の最新情報【医師 宗田 聡】

妊娠・出産
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広尾レディース院長 宗田 聡

宗田 聡

産婦人科専門医 /臨床遺伝専門医
広尾レディース院長

筑波大学卒業後、同大産婦人科に在籍。Tufts大学(ボストン)遺伝医学特別研究員、水戸済生会総合病院産婦人科部長・茨城県周産期センター長を務める。都内レディースクリニック院長を経て、2012年に『広尾レディース』を開設。

広尾レディース:https://www.hiroo-ladies.com/

産婦人科医の道、胎児治療からNIPT(新型出生前診断)へ

ー宗田先生のご経歴や産婦人科を目指したきっかけを教えてください

僕が医者になった頃は、今と違って内科と外科、大体どっちかに行く人が多かったんですよね。ざっくり言うと頭のいい人は内科、体力に自信のある人は外科みたいな感じです。

僕はなんかちょっと頭も今一つ、体力も自信なくてみたいな感じだったので、何でもとりあえず幅広くやりたいなと思って、産婦人科を選びました。世の中の半分の女性を対象にすれば、仕事にはなりそうだという理由もありましたね。 また、ちょうど医師になりたての頃、今から30年ぐらい前ですね、日本で初めて体外受精の子供が生まれたんですよ。それをきっかけに生殖の分野や不妊治療をやってみたいなと思うようになりました。

ーその流れで本日のテーマの「出生前診断」に関わるようになっていったのですね!本日は出生前診断の最新事情をお伺いできると聞いて楽しみにしております

ありがとうございます。体外受精に関わるようになったものの、なかなか身近に専門の先生がいなかったので、自然と様々なことを学んでいきました。

たとえば、当時在籍してた大学が全国でも珍しいお腹の赤ちゃんの治療(胎児治療)に取り組んでいました。今はお腹の中で治療するよりも、未熟児でも早くとり上げてから治療した方がいいという考え方に大きく流れが変わっていますが、胎児医療や診断の研究や技術はどんどん進んでいましたね。

大学院の研究室では、遺伝医学、つまり遺伝の基礎を学ぶ基礎医学に4年間携わりました。当時はPCR法(Polymerase Chain Reaction・ポリメラーゼ連鎖反応:DNAサンプルの特定領域を増幅させる反応)などが今ほど一般的ではなく、機械もまだ十分に開発されていなかったので、自分たちの手で研究を進めていた時代でした。

その後、大学に戻り医学生の教育や若手医師の指導、そして自身の研究に取り組む中で、アメリカへの留学の機会も得ました。留学先のボスであるビアンキ教授(現米国NICHD:国立子どもの健康と人間発達研究所所長)の研究室は、ハーバード大学やMITなどもあるボストンにあったので、そこで後にNIPT(新型出生前検査)の基礎となるような研究を行ってました。その頃、お母さんの血液の中に赤ちゃんの細胞(胎児細胞)が存在することがわかり、その研究が進み技術も進歩していきました。そして、今でいうNIPT(新型出生前検査)という、血液から胎児の遺伝子情報が分かるという時代になったんですね。

留学時代の研究室にて
留学時代の研究室にて
ボス・ビアンキ教授と共に
ボス・ビアンキ教授と共に

ーNIPT(新型出生前検査)ではどのようなことがわかるのでしょうか?

奇形・変形などの形態異常は超音波検査などを使って診断するのですが、NIPT ではダウン症をはじめとした染色体異常の有無がわかります。染色体異常があると、流早産または生まれてきたとしても大きな奇形や病気があるなど出産後に影響があるため、事前に早く知りたいというニーズがあります。

過去にも様々な方法で染色体異常は検査されてきましたが、10年ほど前からNIPT(新型出生前検査)と呼ばれる妊婦さんの血液中の胎児由来細胞の遺伝子を利用した検査が広く世界中で行われるようになりました。

NIPTに限らず、出生前診断は、出生前に胎児の状態や疾患等の有無を調べることで、生まれてくる赤ちゃんの状態に合わせた分娩方法や療育環境を検討するために行われます。その赤ちゃんが重篤な病気や奇形をもっているのか、あるいはもっていないのかを知ることになります。

そして、結果によっては妊娠継続か否かの決断がなされることも。

NIPT(出生前診断)の手軽さゆえの問題点

ー妊婦さんの血液検査でわかるようになったことで、妊婦さんご自身の負担も減り、手軽に受けられるようになったのは、うれしいことですよね

妊婦さんの負担が減り、検査が手軽にできるようになったのは確かですが、実はそこが問題でもあるんです。

簡単に検査ができるようになると、専門ではない人たちがビジネスとして参入してくるようになってしまいます。そして、とりあえず気軽に検査を受ける人が増えてしまい、結果が出てから初めてどうしようって大騒ぎになるんです。専門機関ではない場合、検査のみの実施で、その後の対応は産婦人科に委ねられてしまいます。

30年ほど前にトリプルマーカー(母体血清マーカー)という、血液検査でダウン症のリスクを計算する方法がありました。それも手軽に受けられるようになったがゆえに、色々な問題が起きて国会で議論されるなど社会問題にまでなったんですよ。

出生前診断は、時に産むか産まないかの判断が関わってきます。お子さんの一生が決まることなのに、そういうことを事前に考えないで受けて、結果を知ってから慌てるというのは非常に良くないと思っています。

―先生は、妊婦さんたちの不安な気持ちにつけこんだビジネスの横行や、妊婦さん側も正しく理解しないまま利用していることに危機感をお持ちなのですね

やっぱり単純に陰性ならオッケー、陽性だったらアウトというわけではないですから、そう簡単に決めちゃっていいの?というところですよね。

NIPTで陰性(正常)と出たからといって、もうお腹の子はパーフェクトのスーパーマンみたいな子が生まれるんだって思い込むのは間違いで、染色体異常の他にも赤ちゃんの病気は山ほどあります。

逆にダウン症で生まれてきたとしても、普通に生活している子もいますし、とってもいい子たちです。

我々からすれば、そもそもお腹にいる赤ちゃんの病気を事前に知る必要があるか否かを含めて考えてほしいと思っています。出生前診断を受けるかどうか自体、簡単に決められることではないはずです。

自分たちの子の一生が決まることなのに、真剣に考えることをすっ飛ばして、広告に煽られて気軽に受けて結果だけ見ちゃうっていう、ビジネスにのせられている消費者とビジネスにして食い物にしている業者がいるという状況を危惧しています。

そして個人の問題だけではなく、そもそも日本では出生前診断や人工妊娠中絶に関する議論が全くされていないのも問題なんです。

アメリカでは、人工妊娠中絶などが大統領選でのメインテーマの1つになるぐらい議論が活発です。

トランプさんが大統領の時は、キリスト教の考えからいかなる理由があっても人工妊娠中絶はダメでした。バイデンさんになってからは、性的暴行やDVなどの望まない妊娠に対して、女性の権利が重視されています。

どちらが正しいとは言えませんが、活発な議論を経て、アメリカは国民の考えで法律が変わっていくんです。日本ももっとオープンに議論が必要だと感じています。

ーちなみに、近年高齢出産が増えているという状況も、出生前診断を求める人が増えている要因の1つなのでしょうか?

そうですね、要因としてはあります。ダウン症の発生率は、お母さんの年齢が高くなればなるほどリスクが上がります。今は35歳以上の高齢妊娠は4人に1人ですし、40歳以上だと10人に1人ですからね。

そういう妊婦さんの高年齢化の不安を煽って、ビジネスにつなげやすい社会状況だと思います。

医療者として、正しい情報を届けたいという思いはあります。

厚労省など国も関与している出生前検査認証制度等運営委員会( https://jams-prenatal.jp/ )では、ホームページなどから情報発信もしていますが、なかなか一般の人には届かないのが現状です。

出生前検査認証制度等運営委員会のホームページ
出生前検査認証制度等運営委員会のホームページ(https://jams-prenatal.jp/)

やはり、出生前診断をお金儲けの手段としている会社が広告費を投入するので、ネット検索では信頼性の低い情報が上位に表示されてしまうんですよね。

儲けてる会社が全て悪いというわけではないのですが、広告掲載が極端に多い企業や団体は少しあやしいなと思って気をつけてみるといいかもしれません。

―医療全般において、消費者である患者側も正しく知る、考えるということが重要になりますね

そうですね、なにより「騙されないようにする」っていうことが大事です。

偽のブランドバッグを買うのと同じで、ガード下のあやしい店でブランドものが1万円で売ってたら、それはおかしいんだっていうことをちゃんと理解しなきゃいけない。

同じ結果が出るなら安い方がいいよねっていう考え方もあるとは思いますが、安いものは安い分、機械も精度管理も違うので、同じ検査だと思っていても結果が違ってくることもあるんです。

みなさんがお忙しいのは分かっていますが、やはり時間がかかっても、専門のところに行った方がいいということはお伝えしています。

土日や夜でもできるとか、待ち時間がないとか、結果はスマホに返ってくるとか、そういう手軽さだけで決めて欲しくないですね。

NIPTに関しては、国がやっと重い腰を上げて昨年から認可制度を立ち上げました。

専門家がいてきちんとやっている病院だということを書類審査や条件をつけて詳細に確認して認可しています。

認可されたクリニックや医院で受ければある程度安心ですが、ビジネスでやってるところはリスクがあるんだよっていうことを知ってほしいですね。

私個人としては、命に関わることに対して手軽さを求めてしまうという意識や風潮を変えなければいけないと考えています。そのためにも消費者側のリテラシーや意識をもっと高めなきゃいけないと感じて、色々と取り組んでいます。

日本医学会NIPT認定施設「広尾レディース」の院内
日本医学会NIPT認定施設「広尾レディース」の院内

自分を大事にすることは、赤ちゃんを大事にするということ

ー正しい情報を身につけることが大事という先生からのメッセージが伝わってきます。そのほかに妊婦さんへのメッセージはありますか

妊娠を機に、衣食住、つまりご自身のライフスタイルを見直すきっかけにしてほしいと思います。

食べるもの、睡眠のパターン、身につけるものなど、日々の生活の積み重ねが大事で、結果的に健康につながると思っています。

オリンピック選手でも、いきなり難しい技に挑戦したってうまくいかないですよね。日々の基礎トレーニングを積み重ねてきたからこそ、トップクラスになれるわけです。私たちにとっても毎日の食事とか睡眠とか、そういう基本的なところが大事なんだと思っています。

特に妊婦さんには、口にするものには気をつけてほしいですね。安くて美味しいのが一番ですが、添加物や野菜など素材の安心度(無農薬や定農薬など)についてもちょっと考えてみるのも大事なことではないでしょうか?神経質になりすぎる必要はありませんが、お腹に赤ちゃんがいることをきっかけに、自分が食べるものについて考えてみてほしいです。自分を大事にすることが、赤ちゃんを大事にすることになりますよ。

映画やお芝居など、非現実に浸ってリフレッシュ

ー宗田先生のリフレッシュ方法を教えてください!

スポーツカーを飛ばしてドライブすることです…とかっこいいことを言ってみたいのですが、僕は元々インドア派、いわゆる陰キャのオタクなんです(笑)。

映画を見たりお芝居を見ることが好きですね。

最近は映画館に行かなくても、動画配信サービスを利用すれば自宅で映画も見放題なので、むしろ睡眠不足になっちゃうような状態です。

あとは、小劇場に行くのも好きですね。元々はミュージカルなどが好きでしたが、最近は大きな舞台ばかりではなく、小さな劇場でやっているお芝居を見たりするのが楽しいですね。

ずっと同じ生活の中にいると、どうしてもモヤッとしてしまうことがあるので、映画やお芝居を鑑賞し、現実からズバッと離れた非現実に浸ってリフレッシュしています。

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