「あなただけじゃない」と伝えたい。女性ヘルスケア専門医として更年期世代に寄り添う診療を【医師 福岡 佳代】
目次
女性として女性を支える、「女性ヘルスケア」との出会い
――先生のご経歴や、医師を目指されたきっかけについて教えてください。特に産婦人科に魅力を感じたのはどのような点だったのでしょうか
最初から大きな使命感に燃えて医師を目指したというよりは、自分の興味に従って進んできた結果です。もともと数学や化学、生物といった理系科目が得意で、自分の適性を活かすなら理系の道だと感じていました。その中でも特に医学の世界に強く惹かれ、医師を志しました。
学生時代は産婦人科と神経内科に関心を持っていましたが、病院実習でお産や婦人科の外来、手術を目の当たりにした際、「自分には産婦人科が一番合っている」と感じました。同じ女性として女性をサポートできる点、女性の人生に深く関われる点に魅力を感じ、この道を選びました。
――現在の病院では「女性ヘルスケア」を専門分野とされていますが、関心を持たれたきっかけは何だったのでしょうか
赴任先の病院で、女性ヘルスケアを専門とする先生の後任として患者さんを担当させていただいたことが大きな転機となりました。その先生が大切に診てこられた患者さんを引き継ぐ形で、私もこの分野に深く関わるようになったのがきっかけです。
実際に診療を重ねる中で、この領域を必要としている患者さんがいかに多いかを肌で感じ、私自身も力を入れて取り組むようになりました。
今では、「女性ヘルスケア専門医」かつ「女性医師」であることを調べて、遠方から予約を取ってくださる方もいらっしゃいます。地域でも専門医は限られています。求められている役割を実感しつつ、地域の女性の健康を支えることに、日々責任とやりがいを感じています。

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「否定しない」「安心を持ち帰ってもらう」、患者さんと向き合う上での約束
――患者さんと向き合う時に大切にされていることや、意識されていることはありますか
診療においては、以下を常に心がけています。
- ゆっくり話すこと
- 専門用語、医学用語はなるべく使わないこと
- 患者さんを否定しないこと
- 必ず最後に安心できる言葉をかけること
若い頃に「先生は早口すぎて分からない」と言われたことがありまして。それ以来、意識的にゆっくりと、伝わりやすいスピードで話すように気をつけています。専門用語も避け、分かりやすい言葉で伝えることを心がけています。
特に更年期診療で重要なのが、「患者さんを絶対に否定しないこと」です。
更年期には医学的な定義がありますが、患者さんの訴える症状が典型的な枠に当てはまらないこともあります。心の中で「更年期の症状とは少し違うかもしれない」と思ったとしても、決して否定はしません。「人それぞれ症状は違いますからね」「あまり典型的ではないかもしれませんが、そういうこともありますよ」と、まずは患者さんの言葉を受け止めるようにしています。
そして最後に必ず安心して希望を持ち帰っていただくようにしています。
「医学に『絶対』はありませんが、この症状は治療を続ければ良くなる可能性が高いですよ」「今が一番つらい時期ですが、時間をかければ必ず落ち着いていきます」といったように、先が見えるような言葉をかけ、安心して帰っていただけるよう心がけています。
――医師をされていて良かったと思うことや、やりがいを感じるエピソードがあれば教えてください
以前、がん治療に携わっていた頃、手術が長引いて消灯時間ギリギリに病室へ伺ったことがありました。その際、ある患者さんから「今日、先生来ないかと思ったわよ」と怒られてしまったことがありました。
当時は入院期間も長く、抗がん剤の副作用で心身ともにお辛い状況だったはずです。それにもかかわらず、「怒るほど私のことを待っていてくれたんだ」と思うと、自分の存在意義を感じました。また、ご自身の方が辛いはずなのに「先生、遅くまで大変ね」と私を気遣ってくださる方もいらっしゃって、その優しさに何度も心を動かされました。
また、長く続けてきた醍醐味として、生理痛で通院されていた患者さんが、妊娠・出産を経て、その後、子宮筋腫の手術をしたり、更年期の相談に来てくださることもあります。一人の女性の生涯を長くサポートできた時は、「この道に進んでよかったな」と心から感じます。

更年期診断は「除外診断」
――今回のテーマである「更年期」についてですが、どのようなお悩みで受診される方が多いですか
症状は人によって全く違いますが、多いのは「疲れ・だるさ」、そして「汗・のぼせ」です。周りは寒がっているのに一人で冷房を入れていたり、電車の中で一人だけプール上がりのように汗だくになって恥ずかしい、とおっしゃる方もいます。他にはめまい、関節痛、動悸、気分の落ち込みやイライラ、尿失禁などのご相談も多いですね。
実は、更年期の診断は「否定の医学」とも言われていて、重要なのは「除外診断」です。
「汗をかく=更年期」と思い込んでいても、実は甲状腺の病気が隠れていたり、動悸は心臓、めまいは脳外科の病気だったりすることがあります。まずは他の病気をすべて除外して、初めて「更年期障害」と診断できます。
また、治療についても「診断をつけて安心したいのか」「漢方で治療したいのか」「ホルモン療法を行いたいのか」、患者さんが何を望んでいるかをまず伺うところから始めています。

――先生ご自身も年齢を重ねられる中で、患者さんへの向き合い方に変化はありましたか
私自身、良性発作性頭位めまい症があり、めまいの辛さを身を持って知っています。ひどい時は景色が回ってまっすぐ歩くことすらできません。「めまいが辛い」とおっしゃる患者さんのお話には、「その辛さ、分かります」と深く共感しながら耳を傾けてしまいます。
また、私も汗っかきな体質なので、ホットフラッシュで「恥ずかしい」「どうにかしてほしい」と悩む方の切実な気持ちもよく分かります。
私も年齢を重ね、「私も同じような年齢なので」「この年齢になると、こういうことありますよね」などと、気兼ねなくお話しできるようになったのは楽しく、良いことですね。
20代、30代の頃から更年期外来を担当していましたが、当時は「先生は若いから、私の気持ちなんて分からないのよ!」と言われたこともありました。確かに、若い私が教科書的なことを言っても説得力がなかったのかもしれません。
同世代になった今は、患者さんにとっても「この先生なら分かってくれる」「同じ目線で話してくれる」と感じていただけているようで、信頼関係を築きやすくなったなと感じています。
「あなただけじゃない」、不安や不調を感じたらまずは受診を。
――更年期の症状で不安を感じている方や、受診を迷っている読者の方へメッセージをお願いします。
更年期は症状の定義が曖昧な部分もあり、「自分は一体どうなってしまったんだろう」「どうしたらよいのだろう」と不安になってしまう方も多いと思います。
まずお伝えしたいのは、「あなただけではありません」ということです。同じような悩みを持っている方はたくさんいらっしゃいます。もし「なんだか調子が悪いな」と思ったら、勇気を出して受診してみてください。
先ほどお話ししたように、更年期だと思い込んでいても、甲状腺や心臓など別の病気が隠れていることもあります。まずはそれらを「除外」して、体の状態を正しく知るだけでも大きな意味があります。
受診したからといって、必ずしも薬を飲まなければいけないわけではありません。「診断がついただけでも安心した」と言って帰られる方もたくさんいらっしゃいます。もちろん、辛い症状がある方には、漢方薬やホルモン療法など、ご希望に合わせた治療法を一緒に探していきます。
いきなり受診するのが不安な方は、病院などが主催している公開講座やセミナーに参加してみるのも一つの手です。「更年期はこういうことなんだ」と知識を得るだけでも心が軽くなります。まずは情報を集めることから始めてみるのも良い一歩だと思います。
――最後に、先生のリフレッシュ方法を教えてください。
私のリフレッシュ方法は、ジョギングです。
週末や平日の夜など、時間ができれば少しだけでも走るようにしています。汗をかくと体も心もリセットされて、頭の中がスッキリします。
あとは、旅行に行ったり、美味しいスイーツを食べたりすることですね。自分自身も心身のバランスを整えながら、これからも患者さんの人生に寄り添っていきたいと思っています。
(取材:2025年11月)
※ 本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。



