ママも赤ちゃんも一人ひとりの個性に応じたきめ細やかな産後ケアを【医師 松峯 寿美】

子育て
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育児は学習の積み重ね 慣れない育児でも大丈夫「自分は自分でいいの」

松峯 寿美

東峯婦人クリニック理事長 / 産前産後ケアセンター東峯サライセンター長

産婦人科専門医、日本思春期学会 名誉会員、東京女子医大非常勤講師、母体保護法指定医、日本産前産後ケア・子育て支援学会 監事

1970年東京女子医科大学卒業。1974年同大学院を修了後、同大学病院に勤務し、不妊外来の創設に尽力。1980年には東京・木場に「東峯婦人クリニック」を開業し、不妊治療を主体に、思春期から老年期まで女性の健康を総合的にサポートする医療を実践。さらに2014年には産前産後ケアセンター「東峯サライ」を開設し、現代の育児に悩む母親たちを救うべく活動。長きにわたり現場の第一線に立ち、自身の経験を活かしたトータルケアの理念と技術を伝えることで、次世代へとその役割をつなぎながら、女性の生涯に寄り添い続けてる。

女性の経験を活かし、トータルケアを実現。自身の不妊経験から生まれた総合クリニック

── まず、松峯先生が医師を目指されたきっかけと、産婦人科を選ばれた理由をお聞かせください

私が産婦人科医の道を選んだのは、「女性の気持ちに寄り添える医師になりたい」という願いと、家族の後押しがあったからです。

幼い頃から両親には「女性も経済的に自立できるよう、手に職を持ちなさい」と教えられてきました。特に父は「地球上の半分は女性なのだから、その人たちの役に立つ仕事を」と医師の道を勧めてくれました。

産婦人科に決めたのは、大学卒業時に結婚した夫からの「女性として共感できる科を選んでみてはどうか」という助言がきっかけです。私自身、当時は「子どもを5人産むんだ!」と意気込んでいたので、自分の経験を医療に活かしたいという強い思いがありました。また、母校の創立者である吉岡彌生先生の「デリケートな婦人科こそ女性医師が携わるべき」という理念に深く共感したことも、大きな決め手となりました。

── クリニックを開院された経緯には、どのような思いがあったのでしょうか

大きな転機となったのは、私自身の不妊経験です。当時は「不妊は女性の問題」という風潮が強く、私自身も辛い思いをしながら試行錯誤を繰り返し、ようやく妊娠することができました。

だからこそ、不妊で苦しむ方の気持ちが痛いほど理解でき、専門的に診る場所の必要性を痛感したのです。「自分の経験はすべて診療に活かす」というポリシーのもと、1980年に「東峯婦人クリニック」を開業しました。

「婦人科」ではなく「婦人クリニック」と名付けたのは、10代から高齢の方まで、あらゆる世代の女性(婦人)が安心して訪れることができる場所でありたいと願ったからです。

出産は本能、育児は学習。産後ママを支える心のオアシス「東峯サライ」

── 産前産後ケアセンター「東峯サライ」を設立されたきっかけを教えてください

私自身が育児中に直面した「孤軍奮闘」の経験が原点です。妊娠・出産までは本能で乗り越えられますが、その先の育児は、人から教わって身につける「学習」の積み重ねだと気づきました。

新米ママが自宅で夜も眠れず、母乳や育児の「わからないことだらけ」な現実に直面し、気軽に相談できる相手もいない。そんな状況を見て、産後ケアは必要不可欠だと確信しました。

クリニックでの33年間の経験を経て、2014年に開設したのが「東峯サライ」です。医療・看護・保育を併設した、国内でも先駆けとなる産前産後ケアセンターです。「サライ(Saray)」は砂漠のオアシスを意味します。育児という長い旅路で疲れたお母さんが立ち寄り、心身を癒して再び前向きに出発できる「レストハウス」でありたい。ここでは助産院のような温かいサポートと医療を融合させ、お母さんの自信を取り戻すお手伝いをしています。

産前産後ケアセンター 東峯サライ
https://sarai.toho-clinic.or.jp/

── 患者さんと向き合う際、大切にされていることは何でしょうか

「ここに来てよかった」「また相談しよう」と思っていただける診療を何より大切にしています。産婦人科は女性にとって非常にデリケートな場所です。勇気を持って扉を開けてくださった瞬間から、受付、看護師、そして医師である私まで、すべてのスタッフが心を尽くした対応を徹底しています。

── 先生が医師として喜びを感じる瞬間を教えてください

やはり、赤ちゃんが産声をあげた瞬間は最高の幸せです。この小さな命がこれから100年生きるのかと思うと責任の重さを感じますが、それを上回る喜びがあるからこそ、今も現役で分娩や帝王切開に立ち会い続けています。

また、女性同士だからこそ分かち合える悩みもあります。体が動く限り、この仕事を続けたいですね。最近は外国人の患者さんも増えており、これまで約50カ国の分娩に対応してきました。言葉が完全に通じなくても、出産という本能的な営みに寄り添うことに国境はありません。スタッフも楽しみながら語学を学び、多様な背景を持つお母さんたちをサポートしています。

産後の「休息」が、家族の幸せな連鎖を生む

── 産後ケアの現場では、どのようなお悩みが多いのでしょうか

最も多いのは「睡眠不足」と「育児の不安」です。私はまず、「頑張って産んだわね、少し休みましょう」という言葉と、「育児は学習だから、今はわからなくて当たり前ですよ」という安心感をお伝えするようにしています。

出産後のお母さんの体は、いわば「セミの抜け殻」のような状態です。産後4週間の大切な時期にプロの手を借りて、まずは心ゆくまで眠ること。そして栄養のある食事で、鉄分やミネラルを補給して体力を戻すことが重要です。

この時期は、子宮が戻る「回復」と、母乳を出す乳腺が発達する「進歩」が同時に起こります。専門スタッフがその両面を支えることで、お母さんに余裕が生まれます。お母さんがリラックスすると、幸せホルモンと呼ばれる「オキシトシン」が分泌されます。その結果、母乳の出が良くなったり、赤ちゃんの情緒が安定したりと、幸せな連鎖が生まれるのです。

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育児は学習の積み重ね。赤ちゃんと自分のペースを見つける3つのコツ

── 育児への不安を抱える方に、アドバイスをお願いします

育児は知識ではなく、目の前の赤ちゃんと向き合いながらの「学習」です。心を楽にするための3つのコツをお伝えします。

  1. 「3時間おき」のルールに縛られない
    赤ちゃんはロボットではありません。マニュアル通りにいかないのが当然です。泣き方や成長のペースは一人ひとり異なります。一般的な情報に自分を合わせるのではなく、目の前のわが子の個性を観察し、適応していくことが不安解消の近道です。
    当センターでは、「ミルクで泣き止む時」「眠たい時」など泣き方のパターンを教え、不安をサポートしています。泣くのは、肺が開大したり、筋肉が発達したり、排泄を知らせる大切な成長のサインです。どうか安心して、肩の力を抜いて見守ってあげてください。
  1. 「自分優先」で、見切りをつけるコツを学ぶ
    育児は「終わりのない仕事」です。だからこそ、赤ちゃんとどう折り合いをつけるか、どこで見切りをつけるかが重要です。「トイレに行きたいけれど赤ちゃんが泣いている」という時は、自分を優先して大丈夫。何よりもお母さんの心と体の余裕が大切です。お母さんが自分のSOSに気づき、自分をいたわることが、巡り巡って赤ちゃんや家族を大切にすることにつながります。
  1. 母乳は一滴でも十分。ミルクに頼ってもいい
    母乳には免疫が含まれているため、一滴でも舐めさせれば病気の予防に役立ちます。ですが、おっぱいの大きさや形には個人差があるように、量は人それぞれです。「○ml出さなきゃ」と自分を追い込む必要はありません。今のミルクは非常に優秀ですから、足りない分は自信を持ってミルクに頼りましょう。ただし、病気や体調、さまざまなご事情でおっぱいをあげられない方もいらっしゃると思います。その場合も決してご自身を責めず、ミルクに頼っていただいて大丈夫ですよ。

インターネットの情報に囚われず、「自分は自分でいい」と認めてあげて

── これから出産・育児を迎える方へメッセージをお願いします

妊娠できる体は、出産できます。そして出産を乗り越えた体は、しっかりと育児ができます。どうか「自分は自分でいいんだ」と声をかけてあげてください。

インターネットの情報に振り回されすぎず、まずはわが子を観察し、接しながら学んでいきましょう。私たちは、里帰りができない方や高齢出産の方、シングルの方、さまざまな背景を持つお一人おひとりに寄り添い、「私にもできる」と思えるまで全力でサポートします。どうぞ安心して頼ってください。

女性が社会の一員として安心して活躍できるようバックアップします
引用:診療所併設型産前産後ケアセンター 東峯サライ(https://sarai.toho-clinic.or.jp/

── 先生ご自身のリフレッシュ方法を教えてください

20年間続けている日本舞踊です。ファジーな和楽器の旋律にのって身体を動かす時間は、心がリセットされる大切なひとときです。ゆっくりした動きですが、体幹や骨盤底筋を鍛えるのにも非常に効果的ですよ。おかげで「足腰の筋力と排泄のQOL(生活の質)を維持する」という自身の目標も達成できています。日本舞踊は、私の健康と元気を支える大切なリフレッシュ法ですね。

(取材:2026年3月)


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