「賢く、たくましく」 自分を知り選択肢を増やす。女性のセルフケアを支えるアプリ「CoCoRe」【ライオン 松木 麻依子】

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松木 麻依子

ライオン株式会社
ビジネス開発センタービジネスインキュベーション室CoCoRe事業オーナー

博士(理学)、メノポーズカウンセラ―。ライオン(株)入社後、界面科学の研究をする傍ら、自身が長年悩んでいたPMS(月経前症候群)等の女性特有の精神的な不調に関する検討を開始。2022年に「女性の心のヘルスケアCoCoRe(ココリー)」事業を立ち上げ、翌年6月にwebアプリをスモールスタート。

CoCoRe(ココリー):https://www.lion.co.jp/inno/cocore/

「考え方の癖」を変え、自分の気持ちをしっかり受け入れる

ー 「CoCoRe(ココリー)」は具体的にどのようなサービスなのでしょうか

CoCoReは、女性の体のリズムと心の状態を記録し、一人ひとりに寄り添ったメンタルケアを提供するウェブアプリです。最大の特徴は、心理学に基づいた「考え方のくせを変える」アプローチです。

女性の不調は、ホルモンなどの生物学的な要因だけでなく、心理的な要因や社会環境も複雑に絡み合っています。

たとえば、PMS(月経前症候群)に悩む女性は、自己卑下しやすく、完璧主義な傾向があるというデータもあります。

そこでCoCoReでは、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)という心理療法に基づいたプログラムを提供しています。

心のモヤモヤをトキメキに「CoCoRe」

ー「 ACT(アクト)」とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?

ACTは、不調を否定するのではなく、ありのままを受け入れた上で、自分にとって本当に大切なことに目を向け行動していくという考え方です。

たとえば、「イライラしてしまう」「何もやる気が起きない」と感じた時、その感情を無理に否定せず、「今はイライラしているんだ」「今は何もやる気が起きないんだ」と、ありのままを受け入れます。

そして、呼吸に意識を向けたり、落ち着ける行動をとることで、感情の波に飲み込まれずに過ごすトレーニングをします。

CoCoReには、心を落ち着けるための様々なコンテンツが用意されていて、毎日の気分や目標、生理周期などに合わせて、あなたに最適なACTに基づいたプログラムをお届けしています。

ーCoCoReの”種を育て花を咲かせる”というストーリーがとてもすてきです

ありがとうございます。メンタルケアは、毎日の積み重ねが大切です。

ただしメンタルケアやPMSのケアって、ケアをすることが恥ずかしい、楽しくないといったイメージがあると思っていて、それを少しでも前向きなケア習慣に変えられるように、日々のケアを積み重ねることで、花が育っていくというストーリーを作りました。

ゆくゆくは、育てた花を同じ不調を抱えている人に贈ることができるなど、CoCoReを通して、あたたかいつながりが生まれたら素敵だな、とアイデアをあたためています。

CoCoRe 心の花

女性の抱える「モヤモヤ」を解決したい

ーライオンといえば、オーラルケアやヘルスケア製品のイメージが強いのですが、CoCoRe開発の背景について教えてください。

ライオンは「習慣化」をキーワードに、日々の生活を楽しく前向きなものにすることを通じて、人々の健康に貢献することを目指している会社です。私の所属する新規事業開発の部署では、既存の技術を用いた新製品や習慣化を目指すサービスなどの開発が行われています。その中で、CoCoReは女性のメンタルヘルスに焦点を当てたサービスとして誕生しました。

ライオンがなぜ女性のメンタルヘルス?と疑問に思われるかもしれません。きっかけは、私自身の経験と、周りの女性たちの声です。PMS、産後うつ、不妊治療…多くの女性が、ライフステージの変化に伴って、心身の不調に悩まされています

私自身も、PMSや産後うつに悩まされた経験があります。体の不調は薬などで対処できても、心のケアは後回しになりがち、そんな状況に疑問を感じていました。

ちょうどその頃、周囲の女性たちからも、同じような悩みを打ち明けられる機会が増えました。「生理前にイライラしやすくて、周りの人に当たってしまう」「仕事と育児の両立に追われ、心が休まる暇がない」… がんばり屋さんの女性ほど、自分を責め、追い詰めてしまう傾向があります。

そこで、もっと気軽に心のケアができるサービスがあれば多くの女性を笑顔にできるのではないかと思いました。「体のケア」と「心のケア」の両輪で、女性のヘルスケアは成り立つと考えています。

メンバー集め、社内理解…「フェムテック」黎明期の壁

ー開発中に苦労されたことはありますか?

そうですね、社内の理解を得るのが大変でした。構想自体は2018年頃からあったのですが、当時は女性(female)の不調を技術(technology)でサポートするという意味の造語である「フェムテック(femtech)」という言葉も知られておらず「サービスとして成立するのか?」「本当に儲かるのか?」と、なかなか理解してもらえませんでした。

当時の社内プレゼンの場では、男性の方たちから、「PMSは精神の病気なの?」とか「PMSって、男性でいうとどんな症状なの?」と聞かれましたね(笑)女性の体の変化や心の揺れ動きを理解してもらうこと自体が、大きな挑戦でした。

また、社内起業であるがゆえに、メンバー集めにも苦労しました。ただ外部パートナーやユーザーの方々には恵まれました。共感してくれる仲間や「CoCoReを使って気持ちが楽になった」というユーザーの声が、開発のモチベーションになっています。

「心が軽くなった」というユーザーの声がうれしい

ーアプリを利用するユーザーの反応はいかがですか

ユーザーさんの「心が軽くなった」「自分を責める気持ちが減った」という声を聞いた時は本当にうれしかったです。

特に印象的だったのは、「CoCoReを使うようになってから、子どもへの接し方が変わった」という声をいただいたことです。彼女は、仕事と育児に追われ、常に心に余裕がなく、子どもにきつくあたってしまう自分を責めていました。

CoCoReで、怒りの感情と向き合うコンテンツを試したところ、「怒りを感じてもいい、その上でどう行動するかが大切」ということに気づき、心に余裕が生まれたそうです。

「もっと楽に考えていいんだよ」というメッセージに共感してもらえたことがすごくうれしくて、アプリを作ってよかったなと思いました。

ー 今後の展望を聞かせてください。

CoCoReは、個人向けサービスとしてスタートしましたが、今後は企業向けの展開も視野に入れています。多くの企業が、従業員のメンタルヘルス対策に課題を感じています。CoCoReを活用することで、女性がより働きやすい環境づくりのお手伝いができればと思っています。

「フェムテック」への理解も、以前と比べれば大きく進みました。CoCoReを通して、女性の健康をサポートするだけでなく、もっと社会全体の意識を変えていきたいですね。

自分自身を理解して ”賢く、たくましく” 生きる

ー モヤモヤを抱える読者に向けてメッセージをお願いします。

大切なのは「自分のことを理解すること」そして「諦めずに、たくましく生きること」です。

自分の心と体の不調を最も理解できるのは自分だけです。

もちろん家族や周囲の人も気遣ってくれるかもしれませんが、どう対処するかを決めるには自分が自分のことを理解し、正しい知識をいくつ持っているかということが大切だと思っています。

月経から更年期まで、女性はライフステージに応じて、様々な不調がずっとやってきます。その時に、人に聞ける力がある、正しい知識や情報を取捨選択できる、自分のことを理解できる、賢さとたくましさを身につけてほしいです。

私も、理不尽なことを言われたり、心が折れそうになる経験をたくさんしてきました。それでも自分を責めずに、「まあ、そんな日もあるか」と受け流し、美味しいものを食べて、ぐっすり眠ることが大切です。そして、また次の日から、自分のペースで進んでいけばいいんです。

CoCoReは、自分を大切にするためにあなたに寄り添うサポートツールです。

正しい知識を、なるべくたくさんの選択肢として届けられるものをお届けしていますので、諦めないでがんばろうというメッセージが伝わるといいなと思っています。

緑の中を歩く、異文化に触れる

ー 松木さんは、忙しい日々の中でどのようにリフレッシュされていますか?

短い時間でリフレッシュする時は、CoCoReを活用して、マインドフルネスをしたり、ヨガで体を動かしています。

時間がある時には、緑の中を歩いてリフレッシュするのが好きです。子どもと一緒に虫捕りをしたり、山登りをしたり、自然の中に身を置くことで心がスカッとします。

あとは、異文化に触れることもとても良い刺激になりますね。今海外に住んでいるのですが日本での常識が非常識になる、「当たり前」という価値観が覆されることですごく楽になりますし視野も広がります。異文化に触れるってなかなか日常の中では取り入れにくいかもしれませんが、考え方のくせを変えるという意味ではおすすめですよ。

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