子育ては100点じゃなくてもいい。引き算式のがんばり方で自分だけの子育てスタイルを一緒に考えましょう【公認心理師・臨床心理士 西田 めぐみ】
目次
心理学とリラクゼーションで女性特有のお悩みをサポート
ー 西田さんが心理士を目指されたきっかけや、経緯をお聞かせください
まず、私のこれまでをお伝えすると、20代後半にリラクゼーションサロンで勤務し、30歳を過ぎて自分のサロンを開業しています。
温活をテーマにしたサロンで、妊活中の方や更年期に悩んでいる方、冷え性など女性特有のお悩みを抱える方々に多くご利用いただいていました。
個室空間での施術の中で、肌と肌が触れあいリラックスすると、みなさんの心理的距離もだんだん近くなり、プライベートな相談をしてくださることも多くなりました。
ストレスによるメンタルヘルスの不調の相談がたくさんあり、私自身がなんとなく感覚でアドバイスするのではなく、理論・エビデンスに基づいた心理的なサポートをしっかり提供したいと考えるようになったのが、心理士を目指したきっかけです。その後、サロンを運営するかたわら大学院で学び、臨床心理士、公認心理士の資格を取得しました。
ー 現在のお取り組みをお聞かせください
院を卒業してからは、心理職の経験を積むために大学の学生相談室に2年間勤めました。現在はオンライン相談と精神科病院で、カウンセリングを担当しています。
私が注力しているテーマは、女性特有のお悩みを持つ方への心理的支援とリラクゼーションのサポートです。妊活中の方は一生懸命でひたむきで、息抜きが上手にできないという方がとても多いです。
今はサロンをおやすみしていますが、リラクゼーションと心理学を融合したいという思いはずっと持っていて、妊活中の方の心と体のリラクゼーションができるサロンとしてリニューアルしたいと考え準備を進めているところです。
ー カウンセリングではどんなことを心がけていらっしゃいますか
やはり体の病気と違って、こころのしんどさや困りごとは言語化が難しいという点を意識しています。
もちろん、患者さんが言葉にしてくださることを大事にしながらも、ご本人が言語化できてないことや気付いていないニーズを、お話の節々や表情から汲み取るということを心がけています。
変化を受け入れる”緩み”を生み出す
-このお仕事でやりがいを感じる時はどんな時でしょうか
リラクゼーションの施術をしている時は「楽になりました」というお声や笑顔がすごくうれしかったです。
ただ、心理カウンセリングの場合は、1回のカウンセリングで「すごく楽になりました」と言われても、単純に良かったと楽観的に思えない自分がいます。
カウンセリングに来られる方は、真面目でがんばり屋さんが多く、今まで自分が信じてきた信念やルールの中で、つらさ、しんどさを感じています。そのつらさを感じる考え方や行動を大きく変えようとすることはすごく難しいことだと思います。
カウンセリングの中で、相談者さんが、「今までとちょっと変わってもいいかも」「少しだけ工夫してみてもいいかも」と変化を受け入れる余裕がでてきて、その心の緩みを私が感じたときは、「おっ!」とうれしくなります。その瞬間がやりがいを感じますね。
心理の世界では、0から1の変化を生み出すことがすごく大きなことだなと思います。
つらさを感じている暗闇の中で、まずはひとつの緩みという光を見つけ出すこと。ひとつの光が見つかるとポコポコっとたくさん見つかりだしたりするので、その感覚を大事にしています。
- 心の中で思ってることと表に出てくる言葉は違う場合がありますよね。私自身、「大丈夫です」と言いながら大丈夫じゃないことってよくあるなと思っています
「大丈夫です」は、私の1番こわい言葉ですね。
カウンセリングの中で「大丈夫です」と言って距離を置かれることがあります。大丈夫と口にすることで、ご本人も本当の気持ちをうまく言語化できず、変化を起こすのが難しくなってしまいます。そこで、少しでもお話しの中から本心を引き出しながら、緩みという光を見つけることを心がけています。
-相談者さん自身がその光を見つけたとき、西田さんはどうやって気づくのでしょうか
表情で気付くこともありますし、相談者さんの言葉がこれまでと少し変わることで気付くこともあります。そういう場合は、対面でもオンラインでもなんだか空気感が変わるのを感じますね。
でもそういった時に変化を急がないように気をつけてもいます。変わることはいいこともありますが、あまりに大きな変化だとご自身も周囲もそれについていけなかったり、結果的にマイナスの影響がでることもあると思うんです。
変化は身近で小さいところから、を心がけています。むしろ変わらなくてもいいことも多い。物事自体は変わらなくても、本人の見方や感じ方に柔軟性が加わるだけで楽になることもありますから。そうして相談者さんの気持ちが楽になったり事態が変わってきたことを実感してもらうことで、信頼関係が構築されて、「 この人ならもっと話していいかも」「そんな考え方もあるのか」と思っていただけるようになればいいなと思っています。
がんばり方のマイナスをお手伝い、100点じゃなくていいんです
-育児に関してどのようなお悩みが多いですか
育児で一番多いのは、がんばることはいくらでもあるから、もっとやらなきゃと自分を追い込んで悩んでしまうことですかね。たとえば、こういう育児をしないと”いけない”とか、こういう子どもへの対応をしないと”いけない”など、どんどんがんばる部分を足していく方が多いです。マイナスができなくて、がんばりすぎてしまうんですよね。
実際問題としてお子さんやお母さんのキャパオーバーになってしまって、もはやどうやって力を抜けばいいのかわからない、と多くの方からご相談をいただきます。
そうなってしまうのは、インターネット の影響も大きいのかなと思います。SNSを見て、こんなにがんばっているお母さんがいたり、キラキラした丁寧な暮らしをしてるお母さんがいるのに、どうして私はできないんだろうと考えてしまう。趣味や好きなことをあきらめたくないけど、育児や家事でキャパがいっぱいになってしまうといった状態の方からご相談を受けることも多いです。
-そんな時に、西田さんはどうアドバイスして、どんな言葉をお母さんたちにかけていますか
まずは、その方の子育てのビジョンを伺います。どんな子に育ってほしいのか、どういう親子関係になりたいのかなど言語化してもらうことから始めます。
がんばり過ぎないでというのは、もちろん伝えたいメッセージではあるんですが、それができたらみんな苦労していないわけですから。今いちどシンプルに何がしたいのか、何をするのがいいのかが見えてくるといいですよね。
-漠然と他人と比べるのではなく、置かれている状況やその中でできることの整理ですね。1人だとできないことに目がいってしまったり、周りと比べてしまったりしますよね
そうですね。本来はご夫婦やご家族・周囲で助け合えれば、そもそも1人でがんばらないととは思わなくていいのかもしれません。
でも実際は夫が手伝ってくれないとかだれかに手伝ってもらえる環境にないというお悩みも多いです
そんな時は、相談者の方がこれまでどんなふうにがんばってきたことや工夫されていたことをていねいに聞くようにしています。誰もが一生懸命になればなるほど、1点集中になって見えなくなる部分も多い。パートナーが「何もしてくれない」のではなく「何をすればいいのかわからない」可能性があったり、パートナーの方がよかれと思って声かけをしたことで傷つくことがあったり・・・いろんなすれちがいがあると思うので、今起こっていることを少し外から見たり、カウンセラーからの第三者視点で感じたことをお伝えすることで、同じことでもまた見え方が変わって夫婦で落ち着いて話せるようになったという方もおられます。
-子育ての悩みを一緒に整理してくれる人がいるということを知るだけでも、少しつらい所から抜け出せるなと、思いました
そうですよね。場合によっては、ご主人もカウンセリングを利用してくれたらいいなと思います。ご夫婦同士だとうまくコミュニケーションがとれない場合も、カウンセラーが間に立つことで円滑にお互いを理解できることもあるんじゃないかなと思っています。
子育ても夫婦の関係も「100点じゃなくていいんだよ」ということを、その方に合った方法でお伝えしていきたいですね。
疲れていると思ったら、ひとりでがんばりすぎないで
-育児で困ってる、悩んでる方に 対してメッセージをお願いします
「私、疲れてるな…」と思った時は、ひとりでがんばらず、周囲を頼ってください。
特に育児中は、「自分はがんばっている」「疲れている」という判断が難しいです。疲れていることに気づかない方が多くいらっしゃいます。
周りを頼ったり相談するタイミングはとても難しいと思うのですが、なんだか気分が晴れないな・・・と気付いた時は、カウンセリングを活用するタイミングです。ひとりでがんばり過ぎず、周りの人や相談できるサービスを使っていただきたいと思います。
プチ家出で非日常の自分時間を楽しみます
-最後に、西田さんオススメのリフレッシュ方法やリセット方法をお聞かせください
私は「家出」をします。これを言うと友人に驚かれることもあります(笑)
家出といってももちろん、子どもが寝るまでは私も家にいて、寝かしつけた後、夫に任せて私は家を出ます。一人の時間の中で、本を読んだりピラティスに行ったり、自分の中での非日常の時間を持つようにしています。
旦那さんがお仕事で家にいないとか、そもそも言い出すことが難しいというご家庭もあるとは思いますが、育児に疲れて明るい未来や将来が見えないと感じている方にとっては、少しの時間でも家から離れることをおすすめします。家にいるとどうしても家のことをしてしまうので、30分でも10分でも、ほんの少しでもリフレッシュする時間をとってほしいと思います。
(取材:2024年9月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。