「孤育て」時代を支えたい。地域の中でともに考え育てていける環境づくりを【作業療法士 戸塚香代子】

子育て
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戸塚香代子

川崎市中央療育センター
作業療法士(修士)
特別支援学校自立活動教諭第一種免許(肢体不自由教育)
神奈川県作業療法士会地域リハビリテーション部こども班(班長)

静岡県出身。大学を卒業後、小樽の診療所にて小児〜高齢期への在宅医療・地域医療を学ぶ。その後、横浜にて小児~成人の発達障害専門のクリニックに勤務し、現在は療育センターにて子どもへのリハビリテーションを通じた発達支援・生活支援に従事しながら、保育園・幼稚園や学校に出向き、子どもが過ごす地域の場の支援に力を入れている。また1児の母として仕事と育児の両立を経験中。

モットー「子どもと家族の“食べる・寝る・活動する”を充実させる」

地域との関わり合いの中で生活や自立をサポート

ー戸塚さんのこれまでのご経歴について教えてください

大学では作業療法学科を専攻していました。授業の中で子どものリハビリテーションに触れる機会があり、その時の先生の授業がとてもおもしろくて、そこから小児領域のリハビリに興味を持ちました。

最初の職場は北海道小樽の診療所で、高齢者から子どもを対象に外来リハビリや訪問リハビリを担当していました。雪国の中で生活をどうやって支えるか、その地域の習慣や文化の中での生活支援を学ぶことができたと感じています。

その後、神奈川県に引っ越し、現在は療育センターで、0歳から18歳までのお子さんを対象に生活や自立のサポートを行っています。

ー療育センターでは、具体的にはどのような支援をされるのでしょうか

療育センターでは、発達に課題のある子どもたちとその家族を支援しています。

具体的には、哺乳がうまくできない赤ちゃんや乳幼児の食べることや偏食ついての相談対応、乳幼児健診後のフォローアップ相談から、幼児から学齢のお子さんの姿勢、着替えなどの生活動作や鉛筆の持ち方などの書くこと、あとは縄跳びといった身体的、認知的、精神的な発達に関するリハビリやサポートなどですね。

また、不登園・不登校の子どもたちにも関わりがあります。不登園・不登校のお子さんの中には、発達障害の影響で園や学校生活に適応するのが難しい場合もあるので、そうしたお子さんやご家族の支援を行っています。

学童期以降は、小学校、中学校とライフステージによって関わる周囲の人や団体が変わっていきます。そのため、その子の生活区域にいる大人みんなが連携しながら、お子さんと家族を支援することが大切です。

私の立場としては、センターでのリハビリや相談対応の支援はもちろんですが、お子さんが所属している園や学校、また事業所の先生方とタッグを組みながらサポートできる体制を整えるという部分も大事な役割だと思っています。

―お子さんや親御さんとのコミュニケーションで心がけていることはありますか

まずは親御さんの不安に寄り添うことが大切だと思っています。

親御さんはお子さんの将来についてとても心配されています。お子さんの発達に気がかりな点がある場合、その不安はさらに強まります。まずはその不安な気持ちや思いをしっかり聞いて、寄り添うよう心がけています。

また、どうしてもそのお子さんだけに意識が向いてしまいがちですが、親御さんご自身の生活、兄弟、姉妹の生活、同居のおじいちゃんおばあちゃんの生活など、ご家庭の状況はそれぞれ違います。そのご家庭の生活の中でどのようにサポートできるのかを、常に意識するようにしています。

センターにくるお子さんの多くは、読み書きや運動能力に対して相当な苦手意識を持っています。リハビリを進める際には、少しずつでも成功体験を積めるようプログラムを組み立てたり、声がけをするようにしています。

センターに来た時は少しがんばって練習してみて、ご家庭ではがんばり過ぎないようにバランスをとりましょうかといったことを伝えながら、そのお子さんに合わせたサポートをしています。

試行錯誤する過程さえもやりがいを感じるのが、この仕事のいいところ

―やりがいを感じる瞬間はどんな時ですか

お子さんやご家族と一緒に取り組む中で、できなかったことができるようになるとか、相手が良い方向へ変わっていくことがやっぱりうれしいですね。ご本人のうれしそうな姿を見ることで、私自身もより一層うれしい気持ちになりますし、やりがいも感じます。

ただ、人の体と心は、ロボットのようになんでもすぐにできるようにはならないことが当たり前で、思っていた通りにいくことの方が少ないんですよね。

思い通りできなかった時に、利用者さんやご家族と一緒に試行錯誤するという過程が特に大事だと感じています。

「どうしたらその子ができるようになるのかな?」を考えながら創意工夫することや、同じゴールに向かってその過程をご家族と共有できるのは、この仕事のいいところかなって思いますね。

個性への受け止め方はそれぞれ その子のペースを見守ろう

―子育てをされている親御さんたちからはどんなご相談やお悩みがありますか

そうですね。最近は特に発達に関するご相談を受けることが多いと感じています。

今ってテレビやインターネット、SNSで、発達障害とか感覚過敏という情報が多く流れていますよね。そういった情報に触れて「うちの子もそうかもしれない」「きっとそうだ」と不安になってご相談にいらっしゃる方が本当に多いです。

感覚過敏などは本人にしかわからないことも多いので、周囲の人がそういった症状や特性があるというのを知ることは大切だと思っています。

ただその特徴に少しでも当てはまるからといって、”異常”と断定するのは早いですよとお伝えしています。

子どもって一人一人に個性があって、他の子と違って当たり前ですが、今は核家族が増えて、他のお子さんを見る機会って減っていますよね。その中で断片的な情報に触れて不安になってしまう方が多いなと感じています。

知る機会が増えて、相談に来ていただけるというのは喜ばしいことだと思いますが、過剰に不安になったり悩んだりする必要はないですよとお伝えしていきたいです。

社会の中で育つ子ども。みんなで考えていける環境づくりを

―最後に、子育て中の方や子育てにお悩みの方に向けてメッセージをお願いします

子育ては、自分だけで何とかしようとしないで、とりあえず周囲の人をどんどん巻き込んでください。

子育て中は、育児をしていない時の自分と比べて、自分の時間はないし、ペースを乱されることも多くてストレスを感じやすいですよね。その上、お子さんの発達で気になるところがあれば不安にもなるし、思った通りにいかないこともたくさんあると思います。

気になることがあるなら、保健師さんや幼稚園、保育園の先生、学校の先生など、周囲の人の力をどんどん借りてください。

子どもはやっぱり社会の中で育って、生きていきます。お母さんお父さんだけががんばるのではなくて、私たちみんなを巻き込んで、ああでもないこうでもないって言いながら、みんなで考えていけるといいなと思っています。

子どものペースに合わせて好きなことを一緒に楽しんでいます

―忙しい日々の中で、戸塚さん自身がリフレッシュする方法などがあれば教えてください。

今はまだ子どもが小さいので、なかなか自分の時間をとることや、自分のしたいことをしたいようにするのは難しいなと思っています。

元々登山が好きなのですが、子どもを連れて歩いて登るのはまだ難しいので、ロープウェイに乗って楽しむなど、お互いにできる範囲で我慢せずに楽しむようにしています。

今では娘の生活に合わせて、一緒にプールや公園に行って体を動かしたり、早寝早起きをするようになりました。以前より、頭はスッキリしてますし風邪も引きにくくなって、逆にストレスを感じることが減ったような気もしています(笑)

(取材:2024年8月)


本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。

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