肌のバリアが未成熟な乳児期の湿疹・かぶれは、保湿と早めの治療がポイント【医師 櫻井 直樹】

子育て
記事をシェア
子どもの肌トラブル治療は今が始めどき。一人で悩まず専門家へ

櫻井 直樹

シャルムクリニック 院長

日本専門医機構認定皮膚科専門医、日本レーザー医学会認定レーザー専門医、日本美容外科学会(JSAS)認定美容外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、国際中医師

2002年東京大学医学部を卒業後、同大学医学部皮膚科に入局。東京大学医学部附属病院では、難治性疾患・希少疾患・膠原病を数多く診療するだけでなく、アトピー・乾癬・レーザーの専門外来で研鑽し、皮膚科専門医として数多くの症例を経験。
2011年、千葉県松戸市に「シャルムクリニック」を開院。

関連サイト
シャルムクリニック

アトピーとの向き合いから始まった、皮膚科医としての歩み

ー医師の中でも皮膚科医を目指した経緯を教えてください

祖父の代まで代々医師の家系ということもあり、自然と「自分も医師になりたい」と思うようになりました。

また私自身が幼いころからアトピーに悩まされていて、成長するにつれて症状が悪化し、特に中学・高校時代にはつらい思いをすることも多かったので、そうした経験から医学のなかでも皮膚科を志すようになりました。

皮膚科医となってからは、大学病院、総合病院、皮膚科クリニックなど、さまざまな医療現場で診療に携わってきました。東京大学医学部附属病院では、アトピー性皮膚炎や乾癬(かんせん)、レーザー治療の専門外来をはじめ、難治性疾患や希少疾患、膠原病などの診療にも多く関わる機会を得ました。総合病院では、日常的によくみられる皮膚疾患の診療にも取り組み、美容皮膚科・美容外科クリニックでは、美容医療の分野にも携わってきました。

こうして経験を重ねる中で、「自分だったらこういう診療をしたい」「こんなクリニックをつくってみたい」といった思いが少しずつ芽生えていきました。しかし勤務医という立場では、実現できることにどうしても限界があります。そこで、これまでの経験をもとに、自分なりの診療スタイルをかたちにしたいと考え、開院を決意しました。

そして2011年6月、生まれ育った地元・松戸の地に「シャルムクリニック」を開院しました。患者さま一人ひとりと丁寧に向き合える、温かく信頼できるクリニックでありたいと考えています。

千葉県松戸市にシャルムクリニックを開院
https://www.charme-clinique.jp/

限られた時間で、より良い診療を ー診察の工夫と知識のアップデート

ー診療での心がけや工夫していることはありますか

皮膚科は、ほかの診療科と比べても患者さんの数が非常に多い分野です。そのため、限られた時間の中でも、一人ひとりに対して的確に診断を行うことが求められます。私自身が常に心がけているのは、「できるだけ短時間で、正確な診断を行う」ということです。

もちろん、すぐに診断がつかないケースもあります。そういった場合には、必要な検査を速やかに実施し、診断を確定させるためのプロセスを丁寧に進めるようにしています。

診療の効率と正確さを両立するために、当院では診察室を複数設け、医師が各診療室を回るスタイルを取り入れています。これはアメリカなどでよく見られる診療の形式で、一人の医師が複数の診察室を回ることで、診療の流れを途切れさせることなく、限られた時間の中でも質の高い診療を提供するための一つの工夫です。

当院には1日あたり300~500名ほどの患者さんが来院されます。その中で、限られた時間を最大限に活かし、質の高い皮膚科医療を提供することを目指して、日々診療にあたっています。

シャルムクリニック 待合室
シャルムクリニック 診察室

ーやりがいを感じるのはどんな時ですか。具体的なエピソードがあれば教えてください

さまざまな医療機関を回っても原因が分からず、長い間つらい思いをされていた患者さんに、適切な検査を行って、きちんと診断をつけることができたときは、「診療の力で救うことができた」と実感できる瞬間です。

たとえば乾癬(かんせん)という慢性的な皮膚疾患があります。かつては治療の選択肢が限られており、十分な改善が見込めないケースも多く見られました。しかし現在では、生物学的製剤(いわゆるバイオ製剤)の登場によって、症状をほとんど感じない状態にまでコントロールできる時代になっています。

ただし、こうした治療法は常に最新の知識や動向を追っていないと、実際の現場で活用されにくいのが現状です。実際、従来の治療のまま長年苦しんでいる方も多くいらっしゃいます。

そうした患者さんが当院を受診され、バイオ製剤による治療で劇的に症状が改善したときは、「最新の情報を持ち続けることの意義」を強く感じますし、「ここで力になれてよかった」と心から思える瞬間でもあります。

ー櫻井先生が日々新しいことを学ばれて、アップデートされている成果ですね

そうですね。本当に、学びというのは終わりがないなと感じます。新しいことに取り組むと、またそこから知らなかったことが見えてきて、それを知ろうとすると、さらに次の知らなかった世界が広がっていく。その繰り返しで、終わりがないんです。でも、だからこそ面白いしやりがいもありますよね。

オムツかぶれから赤アザまで、小児皮膚科の大切な視点

ー乳幼児期の皮膚疾患でよくあるお悩みについて教えてください

よくあるのは、「乳児湿疹」と「オムツかぶれ」ですね。特にオムツかぶれでは、「汚れるたびにシャワーと石けんで洗っているのに治らない」というご相談が多いです。実はその“洗いすぎ”が原因になっていることもあります。

皮膚は水分に触れすぎるとバリア機能が低下してしまうため、手湿疹と同じように、洗いすぎは逆効果になることがあります。おむつ交換時はお尻拭きでやさしく拭くだけで十分で、そうするだけで症状が改善することもよくあります。

また、当院ではレーザー治療も行っているため、赤あざなど、生まれつきの皮膚のご相談も多くいただいています。

ーアザの治療は、大人も子供もレーザーを使うのですか?

アザのレーザー治療は、大人にも子どもにも行いますが、特に小児期に多いのは、太田母斑、異所性蒙古斑、扁平母斑、単純性血管腫(毛細血管奇形)、いちご状血管腫(乳児血管腫)といったものです。

このうち、異所性蒙古斑やいちご状血管腫のように自然に薄くなることがあるものもありますが、基本的には多くのアザは自然に消えることが少なく、治療が必要です。特に皮膚が薄くて反応が出やすい小児期にレーザーを行うと、より効果が出やすく、治療成績も良好です。

ー小児のアザ治療に対応できるクリニックは限られているのでしょうか

はい、実際には限られていると思います。

アザの治療には、まず専用のレーザー機器が必要ですが、それだけで対応できるわけではありません。重要なのは、アザの種類に応じて、どのレーザーをどう使うかといった専門的な知識と経験です。

たとえば、「シミ取り」として使われるレーザーとは、アザ治療に必要なアプローチが大きく異なります。特に赤アザのような血管の病変は、より繊細で難しい対応が求められます。

そうしたアザの治療には、大学病院のレーザー外来などで、しっかりと訓練を受け、さまざまな症例を経験してきた医師でないと、的確な判断や治療が難しい場合もあります。そのため、小児のアザにきちんと対応できる医療機関は、どうしても限られてくるのが現状です。

ー赤いアザの治療は、なぜ難しいのですか?

赤アザの治療が難しいのは、レーザーが直接壊したい部分(血管壁)ではなく、その中にある「ヘモグロビン」という赤い色素に反応させて放熱させることで血管壁を壊す、という仕組みにあります。

たとえば、茶色や青色のアザ(蒙古斑や太田母斑など)は、色素を直接ターゲットにできるので、比較的レーザーの反応も予測しやすく、治療の設計もしやすいです。ところが赤アザの場合、レーザーの熱がまずヘモグロビンに吸収されて、それが周囲の血管壁に伝わることでようやく効果が出る、という少し遠回りな仕組みなんですね。

さらに、血管の太さや深さは人によって異なります。浅い血管、深い血管、細い血管、太い血管——どのタイプがどのくらいあるかは外からは見えないので、治療しながら調整していく必要があります。

こうした理由から、赤アザの治療は非常に繊細で、豊富な経験と知識が求められる分野になります。

乳幼児、小児の皮膚トラブルは早めの治療がポイント ー湿疹と食物アレルギーの関係

ー子どもの湿疹で受診の目安はありますか

湿疹がある場合、「アトピー性皮膚炎なのか、乳児湿疹なのか」と気にされる方も多いのですが、実は診断名に関わらず、治療の基本はほとんど同じです。保湿と、必要に応じた抗炎症の外用薬(ステロイドや非ステロイド薬)でしっかり炎症をコントロールする、というのが治療の柱になります。

乳幼児の皮膚トラブルは丁寧なケアと早めの治療がポイント

アトピー性皮膚炎と診断されるかどうかは、たとえば乳児であれば「2ヶ月以上、頭や顔、首まわりに湿疹が続いている」といった一定の基準がありますが、実際にはその診断名によって治療が大きく変わるわけではありません。ですので、「アトピーかどうか」を気にしすぎる必要はありません。

むしろ重要なのは、湿疹がきちんと治っているかどうかです。皮膚には、外からアレルゲン(ダニや卵など)が入りやすくなる「経皮感作(けいひかんさ)」という仕組みがあるため、湿疹が長引いていると、将来的にアレルギーを引き起こすリスクが高まると考えられています。

保湿だけではなかなかよくならない湿疹、特にワセリンなどを塗っても改善しないような場合には、早めに皮膚科を受診して適切な治療を受けることをおすすめします。湿疹を早期にしっかり治しておくことが、アレルギーの予防にもつながります。

ー湿疹からアレルギーになるというのは、どういうことでしょうか

「経皮感作(けいひかんさ)」とは、皮膚に炎症や傷があると、そこから本来体に入ってほしくない物質(アレルゲン)が入り込みやすくなり、それによってアレルギーを発症してしまう、という仕組みです。

この考え方が日本でも広く知られるようになったきっかけの一つに、かつて市販されていたある小麦加水分解成分含有石鹸によるアレルギー問題があります。皮膚のバリア機能が低下した状態で、小麦成分を含む製品を使用したことが原因で、小麦アレルギーを発症する人が相次いだというもので、当時大きな社会問題となりました。これにより、「皮膚からのアレルゲンの侵入がアレルギーにつながる」という考え方が医療の現場でも一気に広まりました。

特に乳児期の湿疹は、こうしたアレルギーのリスクにつながることがあるため、できるだけ早くきちんと治療してあげることがとても大切です。以前は、湿疹がある子にアレルギーが疑われた場合、まず食べ物を除去して様子を見る、という対応が一般的でした。

現在の考え方では、口から取り入れることで免疫がその物質に慣れていき、アレルギーを起こしにくくなる「免疫寛容」という仕組みを活かして、むしろ適切なタイミングで食べさせていく方が、早く改善につながるとされています。

もちろん、安全に進めるためには、小児科や皮膚科で連携をとりながら治療を進める必要があります。湿疹をしっかりコントロールしながら、無理のない範囲で少しずつ食べていくというアプローチが、今のスタンダードになりつつあります。

免疫寛容、適切なタイミングで食べさせていくことで早期の改善につながる

ーお子さんの皮膚疾患に悩んでいる方に向けて、メッセージをお願いします

お子さんの皮膚のことで悩まれている方には、ぜひ「今すぐできることがある」ということをお伝えしたいです。

たとえばアザの治療については、「何歳から始められますか?」とよく聞かれますが、実は治療に“待つ必要”はありません。皮膚が薄く繊細な時期だからこそ、早期に治療を始めたほうが効果が出やすいこともあります。今がもう始めどきです。

また、乳児期の湿疹についても、肌のバリア機能がまだ未成熟な時期だからこそ、丁寧なケアと早めの治療が大切です。毎日の保湿をしっかりと続けること、洗いすぎないこと、そして湿疹がなかなか治らないときは、なるべく早く皮膚科や小児科で相談してみてください。

小さな不安でも、専門的な視点で見ればすぐに解決できることも多いです。どうぞ一人で悩まず、気軽に相談していただけたらと思います。

診療の原動力は、知的好奇心と小さな楽しみ

ー先生のリフレッシュ方法を教えてください

もともと気分の浮き沈みがあまりない性格なのですが、リフレッシュという意味では、お酒を楽しむ時間が一つの切り替えになっています。特にシャンパーニュを開けるときは、気持ちも高揚して、良い気分転換になります。

また、学会で遠出することも良いリフレッシュになります。新しい空気に触れることで、自然とモチベーションが高まりますし、日々の診療とはまた違った刺激を受けることができます。

個人的には、「学ぶこと」自体が大きな楽しみでもあります。最近は分子生物学や免疫学を改めて学び直しているのですが、非常に興味深いと感じています。というのも、皮膚科を含めた多くの診療科で、生物学的製剤(バイオ製剤)の使用が進んでいて、そうした治療を適切に活用するには、基礎的な免疫学的理解が欠かせない時代になってきていると感じています。

技術の進歩にも日々驚かされます。たとえば、乳児の採血が難しい中で、指先からの少量の血液で40項目以上のアレルギー項目が調べられる検査が登場するなど、今後ますます検査や治療の負担が軽減されていくことが期待されます。新しい知識や技術に触れ続けることが、私にとってのリフレッシュであり、日々の診療への意欲にもつながっています。

新しい知識や技術に触れ続けることが日々の診療への意欲に

(取材:2025年3月)


本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。

記事をシェア
あなたのお悩みを募集中。

あわせて読みたい

トップ > 新着記事一覧 > 肌のバリアが未成熟な乳児期の湿疹・かぶれは、保湿と早めの治療がポイント【医師 櫻井 直樹】