高難度の不妊治療をプロフェッショナル集団がチーム医療で支えます【医師 蔵本 武志】

妊活・不妊
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妊娠・出産を希望する患者さんがいる限り決してあきらめません
蔵本ウイメンズクリニック 理事長・院長 蔵本 武志

蔵本 武志

蔵本ウイメンズクリニック 理事長・院長

医学博士、日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本生殖医学会認定生殖医療専門医、母体保護法指定医師

1979年久留米大学医学部卒業後、山口大学医学部産婦人科入局、1985年山口大学大学院修了、山口県立中央病院(現:山口県立総合医療センター)産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、1990年オーストラリア、PIVETメディカルセンターへ留学。1995年「蔵本ウイメンズクリニック」を開院。

生殖補助医療のエキスパートが団結し、高度な不妊治療に挑む

ー蔵本先生の経歴と開業にいたるまでの経緯をお聞かせください

帰国後はこの経験を生かして高難度な不妊治療に従事する一方で、大学病院や国内外の学会で、人工授精、体外受精、顕微授精に関わる発表や講演も行っています。

開業を決意した理由の一つは、勤務していた大学病院で、不妊治療中の患者さんと妊婦さんが同じ待合室を使用しなければならないことにありました。多くの不妊症の患者さんにとって、妊婦さんを間近に見ることは精神的な苦痛につながるため、不妊治療専門施設の必要性を強く感じるようになったのです。

1995年6月、私は独立し、福岡市博多区で不妊治療の専門施設「蔵本ウイメンズクリニック」を開業しました。高いレベルのチームにより、高度な不妊治療の実現を目指し、第一歩を踏み出したのです。

蔵本ウイメンズクリニック ホームページ
1995年「蔵本ウイメンズクリニック」を開業
https://kuramoto.or.jp/

ーチーム医療で行う不妊治療について、具体的に教えてください

現在、当院には約70名のスタッフが在籍しています。7名の常勤ドクターと3名の非常勤ドクターをはじめ、卵子や精子、胚を取り扱う14名の胚培養士、不妊症看護認定看護師、臨床心理士など、生殖補助医療(ART)のエキスパートが集結し、チーム体制で治療にあたっています。

※生殖補助医療(ART):体外受精、胚移植、顕微授精など、配偶子(精子・卵子)や胚(受精卵)を体外で取り扱う専門性の高い治療の一種。タイミング法や人工授精などでは妊娠に至ることが難しい患者の治療方法として行われる。

チーム医療を導入するきっかけとなったのは、オーストラリアでの学びでした。不妊症に悩む方々のために、各分野の専門技術を持つプロフェッショナルがチームを組んで治療にあたるシステムの素晴らしさに感銘を受けたのです。

世界のトップクラスの医師たちは、不妊治療を一人で行うのではなく、優秀なスタッフと協力しながらチームで取り組むことで、難しい治療の成功率を高めていました。

特に、「エンブリオロジスト(胚培養士)」は、農学部や生物学科などで高度なスキルを学んだ専門家が多く、生殖補助医療の現場では欠かせない存在です。

さらに、不妊治療に関する専門知識を持つ看護師や、不妊カウンセラー、体外受精コーディネーターなどがチームを組み、一人の患者さんを担当していました。これにより、高度な生殖補助医療を提供できる体制が整っていたのです。このような取り組みを目の当たりにし、日本の不妊治療にも導入すべきだと強く感じました。

この取り組みにより、私たちは日本で初めて、人工精液瘤から採取した精子を用いた顕微授精に成功しました。近年では、胚盤胞1個移植が高い妊娠率を維持しながら、多胎妊娠を防ぐということを2001年に日本で初めて日本受精着床学会で報告しています。

第19回日本受精着床学会 要旨
第19回日本受精着床学会 要旨より抜粋

ースタッフ全員で毎週カンファレンスを行い、患者さんのサポートをチームでされていると伺いました

不妊治療の現場では、卵管の閉塞や精子の運動機能の低下といった、比較的分かりやすい原因がある場合を除き、多くのケースで原因の特定が非常に困難です。

だからこそ、一人ひとり異なる状況に応じて原因を丁寧に探り、その方に合った治療方針を立てることが、医師の腕の見せどころでもあります。その際には、これまでの経験だけに頼るのではなく、科学的な根拠=エビデンスに基づいた治療計画を立てることが不可欠です。そのためには、日々の診療で得られたデータの蓄積も非常に重要になってきます。

とくに難易度の高い治療が求められる場合には、高度な知識と技術を持つ生殖補助医療の専門チームが力を合わせ、互いに情報を共有しながら、最適な治療計画を組み立てていきます。

診断や治療方針の決定が難しいケースでは、複数の専門職が集まり、カンファレンスを開いて難治性症例について意見を出し合います。患者さんの日常生活の背景に加えて、卵巣刺激法、卵子や精子の状態、顕微授精の方法、胚の培養方法、卵子を活性化させる方法など、あらゆる角度から問題点を洗い出し、どうすれば改善できるかを話し合いながら治療を進めていきます。

「妊娠を望む患者さんの思いに、なんとしても応えたい」。そんな共通の想いを持った専門家たちが知恵と技術を持ち寄り、「決してあきらめない」という強い気持ちで治療にあたっています。

院内風景(蔵本ウイメンズクリニックより引用)

不妊治療の先駆者として歩んだ軌跡と使命

ー患者さんと向き合う時、大切にしていることをお聞かせください

不妊の原因は、人それぞれの状況や背景、そしてご希望によって異なります。そうしたなかで、私たちが何より大切にしているのは、「患者さんの心に寄り添い、しっかりとお話をうかがうこと」です。

不妊症の患者さんの中には、中等度から重度のうつ症状を抱えている方もいらっしゃいます。一見元気そうに見えても、実際には深い悩みを抱えていることが多く、心のケアは非常に重要です。

当院では、開業2年目から臨床心理士を迎え、専門的なケアを行ってきました。不妊に対する悩みは一人ひとり異なります。そのお気持ちをできる限り丁寧にくみ取り、前向きな気持ちで治療に臨んでいただけるよう、万全のサポート体制を整えています。

また、患者さんには、ひとつの方法でうまくいかなかった場合のセカンドオプションをご提示し、十分ご納得いただいたうえで治療を進めていくことを大切にしています。不妊治療は決して簡単なものではありませんので、当院では常に複数の選択肢をご用意しています。

複数の選択肢をご用意しご納得いただく治療を

現在、不妊治療には保険が適用されますが、初回治療計画作成時の女性の年齢によって、体外受精の回数に制限があります。40歳未満の方は43歳になるまでに胚移植は6回まで、40歳以上の方は同じく43歳になるまでに3回まで保険で受けられるという制度です。

当院には、その「最後の1回」にかけて、他の医療機関から転院される方も多くいらっしゃいます。非常に大きなプレッシャーを感じる場面ではありますが、その思いにしっかりと応えることが、私たちの使命だと考えています。

特に、これまでの治療で思うような結果が得られなかった方に対しては、これまでと同じ方法を繰り返しても結果は変わりません。患者さんの全身状態や卵巣の反応、卵子の質などを総合的に見極め、治療方法を見直す必要があります。

一人ひとりに合わせたオーダーメイドの治療法を模索し、できるだけ治療期間を延ばさないようにすることが、最も患者さんの力になれる方法ではないかと考えています。

ー患者さんと接するなかで、印象に残っているエピソードはありますか

私が不妊治療に携わるようになってから、気がつけばおよそ40年が経ちました。やはり、不妊治療を経て授かったお子さんを連れてきてくださったり、お手紙をいただいたりする時は、本当に嬉しく思います。

ある時、講義で伺った大学の医学部で、ひとりの学生さんから「先生のおかげで私は生まれました」と声をかけられたことがありました。その言葉を聞いたときは、驚きとともに胸が熱くなりました。

また、当院での不妊治療によって生まれた女性が大人になり、今度は患者として私のもとを訪れてくださったこともありました。そのときには「この方にも、ぜひ赤ちゃんを抱いてほしい」と、強く思いました。親から子へ、そしてその次の世代へとつながる命の誕生に関われることは、医師として何よりの喜びです。

これまで、遠くは北海道からも、全国各地から多くの患者さんが足を運んでくださいました。そうした方々の笑顔を思い浮かべるたびに、「新しい命の誕生を支える生殖医療という仕事は、本当に尊いものだ」と、改めて実感しています。

新しい命の誕生を支える

治療との両立に悩む声、周囲の理解の重要性をお伝えしたい

ー不妊治療の患者さんから、どのような悩みが多く相談されますか

一番多いのは、「なかなか妊娠しないのはなぜか」というお悩みですが、働く女性が増えた現代社会で、増加していると感じるのは「不妊治療と仕事を両立することの難しさ」です。

不妊治療は、排卵やホルモンの状態を見ながら進めるため、治療スケジュールが急に決まることがあります。そのため、「不妊治療のために休暇をとることが難しい」という悩みをよく耳にします。患者さんの負担を減らすためにも、「不妊治療を長引かせない」ということが重要だと思っています。

また、できれば、職場の上司や同僚に不妊治療中であることを打ち明けて、協力してもらえるような環境を作ることをおすすめしています。

日本では、不妊治療を受ける夫婦の割合が増えており、約4.4組に1組が何らかの不妊治療を受けたことがあると言われてます。公益社団法人日本産科婦人科学会により、2022年に出生した77万759人のうち、77,206人が高度生殖補助医療(ART)によって産まれたことが発表されています。つまり、約10人に1人が体外受精で産まれた計算になるのです。

晩婚化が進む現代社会では、不妊治療に対する認知度や必要性も高まっています。不妊治療を行っていることを、堂々と言える時代だからこそ、周囲も理解を示してくれることでしょう。

金銭的な面で不安のある方は、自治体の助成金制度を利用したり、高額療養費制度が適用される場合もあります。当院では、こうした制度の利用法に関する相談も行っています。

説明会やカウンセリングなど、各種サポートを提供
蔵本ウイメンズクリニックより引用)

ー不妊治療に取り組む方にメッセージをお願いします

不妊治療を受けておられる方は、不安な気持ちで日々を過ごしていると思います。しかし、不妊治療の技術は日進月歩で進んでいます。従来、妊娠・出産が難しいと言われていた方でも、チャンスが増えていますので、あきらめる必要はありません。

また、治療がうまくいかずに心が疲れ、苦しいときは、少し治療を休むことも考えてください。リフレッシュできるような趣味を見つけて、気分転換をはかることも重要です。上手にストレスを解消しながら、一緒に頑張っていきましょう。

映画やミュージカルなど非日常を楽しんでリフレッシュ

ー蔵本先生のリフレッシュ法を教えてください

面白そうな映画があれば、映画館へ観に行きます。アクション系のスッキリするような映画が好きですね。

また、観劇も好きで、ミュージカルをよく観に行きます。レ・ミゼラブルは数十回は鑑賞しました。普段の生活とは違う環境で、非日常的なストーリー展開に触れることが、気分転換になっています。

(取材:2025年4月)


本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。

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