不妊治療は進化し続けています。自分に合った治療法はきっと見つかるのであきらめないで【医師 石塚 文平】

妊活・不妊
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POI(早発卵巣不全)の不妊治療で悩む人々に希望を届けたい
ローズレディースクリニック 院長 石塚 文平

石塚 文平

ローズレディースクリニック 院長、聖マリアンナ医大名誉教授

産婦人科医

昭和大学(現 昭和医科大学)医学部卒業後、米国空軍立川病院でのインターンを経て慶應義塾大学産婦人科に入局。医学博士取得後、米国カリフォルニア大学 サンディエゴ校生殖医学科へ留学。帰国後は、聖マリアンナ医科大学 産婦人科にて不妊治療・生殖医療に携わる。2000年より、聖マリアンナ医大産婦人科教授、2012年より、高度生殖医療技術開発講座 特任教授を経て、2014年「ローズレディースクリニック」院長に就任

研究・臨床に長年従事し、高度生殖医療の発展に貢献

――産婦人科医を志したきっかけや経緯を教えてください

産婦人科の開業医だった父の影響で、医療の道に進みました。

昭和大学医学部を卒業後、最初にインターンとして勤務したのは、当時立川にあった米軍病院でした。ここにはアジア各地から在留米兵が集まり、特にお産の件数は非常に多かったのを覚えています。

住み込みで24時間体制という環境の中、多くの出産に立ち会い、命が誕生する瞬間の素晴らしさや、産婦人科医としての姿勢を学ぶことができました。

大学を卒業した当初、私はアメリカに渡り臨床医になりたいと考えていました。しかし留学の手続きには1年ほどの準備期間が必要だったため、米軍病院時代の同僚に誘われ、彼の母校である慶應義塾大学病院の産婦人科にご縁をいただくことになったのです。

慶應義塾大学病院では診療に携わりながらホルモン(内分泌)の研究を進め、医学博士号を取得しました。その後、研究のために米国カリフォルニア大学サンディエゴ校 生殖医学科に留学し、帰国後は聖マリアンナ医科大学病院の産婦人科に入局。以降、不妊外来で主にホルモンを担当するなかで、卵巣機能低下の不妊治療を専門とするようになっていきました。

ローズレディースクリニック
https://roseladiesclinic.jp/

――ローズレディースクリニックを開院した経緯についてお聞かせください。

私は1982年に聖マリアンナ医科大学産婦人科に入局して以来、65歳で退官した後も大学に残り、高度生殖医療の臨床と研究に携わってきました。その間、数多くの出会いに恵まれ、新しい治療を開発できたことに心から感謝しています。

一方で、不妊治療は今もなお進化を続けています。大学病院を退いた後も「これまでの経験を生かし、患者さんのお役に立ちたい」という思いから、父が残してくれたクリニックに戻り、ローズレディースクリニックを開設しました。

55年にわたって研究への熱意を持ち続けられたのは、医療の転換期に新しい治療が確立されていったこと、そして偶然の出会いによって導かれた数々のご縁のおかげだと感じています。

ローズレディースクリニック 受付
ローズレディースクリニック 待合

早発卵巣不全(POI)が原因の不妊をあきらめないために

――早発卵巣不全(POI)の不妊症の治療について教えてください

当院では永年蓄積された技術を駆使して、一般的不妊症から難治性の早発卵巣不全(POI)による不妊までを治療します。早発卵巣不全の不妊治療を専門的におこなう医療機関は全世界的にほとんどありません。

POIとは、卵巣機能不全の中の一つの症状で、40歳未満で卵巣の機能が著しく低下、または停止し、月経がなくなってしまう状態を示します。

POIの患者さんは、体内で女性ホルモンを分泌する能力が衰えており、排卵が行われていない状態です。卵巣の機能が低下している方は、卵巣内に残っている卵子が非常に少なくなっているため、妊娠することがとても難しいとされます。

私は「POIの患者さんは、ご自身の遺伝子を持った赤ちゃんは授かれない」と言われていた頃からPOIの治療・研究に没頭してきました。かつては海外の研究機関でも、“無月経になると不妊治療は不可能だ”といわれていたほど、難しい分野に果敢に挑戦してきたのです。

長年の臨床・研究成果が実り、特別な排卵誘発法である「ローズ法」と、私が生殖医療センター長として、研究してきた原始卵胞体外活性化法活などを併用することで、妊娠確率を高めることを可能にしました。

POIの患者さんであっても、卵胞発育(卵巣の中で卵子を包む「卵胞」が成長していく過程のこと)さえすれば妊娠は可能だと判明したのです。それによって、多くのPOI患者さんの妊娠を実現することができました。

IVA治療フロー

画像出典:IVA(原始卵胞体外活性化法)|不妊治療のローズレディースクリニック (※一部改編)

――POIの不妊治療において、卵巣予備能を把握することがなぜ重要なのですか。

女性の卵子の数は、産まれた時点ですでに決まっており、その数は排卵と共に毎月減少します。しかしながら、無月経でも、ホルモン治療などによって、卵胞発育を促すことが可能です。

だからこそ、妊娠を望む場合、残っている卵子の数(=卵巣予備能)が重要で、“卵巣の中に今後発育できる卵がどれくらい残っているか、目安を調べるための検査”である、「AMH検査」が必要になるのです。

当院で行っている「高感度AMH検査」は、従来の検査では測定が難しかった「卵が残り少ない場合の低い値」まで確認できるのが特徴です。

一般的なAMH検査ではナノグラム単位(ng/mL)で測定しますが、高感度AMH検査ではその千分の一にあたるピコグラム単位(pg/mL)まで測定可能です。より細かく測定できることで、効果的な治療法の選択や治療に適したタイミングを見極めやすくなります。

卵巣機能が低下している場合でも、その方に合った方法を組み合わせながら、状況に応じた不妊治療をご提案しています。

――深刻なお悩みを抱える不妊治療の患者さんと向き合う時に、心がけていることはありますか

不妊治療に限らず、一般的な医療全般に共通する姿勢として大切にしているのは、患者さん一人ひとりの立場や信念に寄り添うことです。

専門的な視点から見ると、不妊治療は夫婦関係に深く関わるため、その関係性に悪影響を与えないよう、言葉の選び方にも配慮しています。

不妊治療は、身体的・精神的・経済的に大きな負担を伴うだけでなく、パートナーの関係性のあり方や歩み方にも影響を及ぼします。そのため、きめ細やかなカウンセリングを行い、治療が終わった後も心のケアをサポートしていくことが大切だと考えています。

確かな医療を提供し、女性の一生をサポートします

――卵巣機能の低下は、不妊以外にもどのような影響を及ぼしますか

女性ホルモンであるエストロゲンは、卵巣内で育つ「卵胞(らんぽう)」から分泌されます。つまり、卵巣機能の低下は不妊の原因となるだけでなく、女性の健康維持にも大きな影響を及ぼします。

閉経が早い方は、さまざまな病気のリスクが高まったり、死亡率が上がる可能性があることを、海外のデータ(米国、英国、韓国など)が示しています。

もちろん、平均的な年齢で閉経を迎える方も、女性ホルモンの減少によって体に不調が現れます。女性の一生を支える「生涯の主治医」として、健康をサポートしていくことが私の使命だと考えています。

――医師としてやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか

当院に来院される患者さんの7〜8割は、卵巣機能の低下による不妊に悩まれています。その中には、他院で「治療が難しい」と診断され、紹介を受けてお見えになる方も多くおられます。

もちろん、治療が実を結び妊娠されることが最も望ましいのですが、もともと難しいケースが多いため、長く通院していただいても妊娠に至らない場合もあります。

それでも「治療を受けてよかった」と思っていただけるよう、その方の人生にとってプラスになる診療を心がけています。そうした治療を行うことこそが、私のやりがいであり、使命だと感じています。

そして、このような思いで患者さんと向き合うなかで、感謝の言葉をいただけることが、私にとって何よりのエネルギー源になっています。

ローズレディースクリニック エントランス

――不妊治療で悩む方々へメッセージをお願いします

近年は晩婚化が進み、不妊に悩まれる方が増えています。年齢を重ねることで妊娠しにくくなるのも現実です。

一方で、不妊治療は日進月歩で進化しており、高度生殖医療技術の発展によってこれまで難しかった治療も少しずつ可能になってきました。

私自身も1990年代から現在に至るまで、早発卵巣不全の研究・治療に精力的に取り組み、その成果として、35歳未満の早発卵巣不全(POI)の方の37%が、治療開始5年以内に赤ちゃんを授かったという治療成績を得ています。

「子どもを持ちたい」という思いに、私たちもできる限り寄り添い、力になりたいと考えています。ご自身に合ったクリニックや病院を見つけ、前向きに歩んでいくことで、新しい可能性が拓けることがあるとお伝えしたいです。 また、不妊治療がうまくいかなかったからといって、それで人生が終わるわけではありません。人生にはさまざまな生きがいや歩み方があります。私たちは、その一歩一歩を全力で支えていきたいと思っています。

生涯主治医として女性の一生の健康サポートすることが私たちの使命です

散歩や読書を楽しみながら気分転換

――石塚先生のリフレッシュ方法を教えてください

以前は趣味としてジョギングを楽しんでいましたが、今は腰に負担がかかるので、散歩でリフレッシュしています。大学病院を退官してからは多少、時間の余裕もできましたので、ゴルフに再挑戦してみたいとも思っています。

また、クラシックの唄のレッスンを受けている事も健康法に繋がっています。読書は常に私の人生に指針を与えてくれます。健康法と言うより生きるために必要不可欠なものです。

(取材:2025年7月)


本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。

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