更年期を乗り越えた先には、明るい未来が待っています【医師 丸尾 伸之】

目次
コロナ禍を機に、患者さんが安心できる場の提供を目指して開院
ー丸尾先生が産婦人科医を目指したきっかけを教えてください
私の父と母方の祖父が産婦人科医で、私は祖父が経営する産院で生まれました。2人の背中を見ながら育った私は、自然な流れで医師を志すようになりました。
祖父は開業医でしたが、父は勤務医だったため、「クリニックを継がなければならない」という縛りはありません。
何の専門医を目指すべきかという選択肢も自由にありましたが、職人の子どもが技を継承していくように「祖父や父の意思を引き継いでいくのも悪くない」と考え、産婦人科医の道を選びました。
ーレディーバードクリニックを開院された経緯をお聞かせください
15年ほど勤務医として経験を重ね、開業を決意したのは3年前の2022年です。
病院の婦人科に勤務していた当初は、子宮筋腫や卵巣腫瘍、がんの手術といった外科的な症例に多く携わっていました。その後、淀川キリスト教病院の周産期母子医療センターへ異動になり、多くの出産に関わるようになり、新しい命が誕生する現場にやりがいを感じるようになったのです。
出産というのは、人生の中でもドラマチックで、非常にプライベートな領域です。他人が関われない場面に立ち会えるということは他の科にはない魅力で、大きな喜びを感じていました。約10年間、周産期センターで命の誕生と向き合い、充実した日々を過ごしていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、患者さんとの向き合い方を考え直すようになりました。

世の中が一変したコロナ禍で、病院は特に緊張感を強いられる場所になってしまいました。消毒やマスク着用の徹底はもちろん、衛生管理を優先するあまり、日常生活とはかけ離れたルールに従うことが絶対だという雰囲気に変わってしまったのです。
感染予防を理由に、辛い思いをしている患者さんへの面会を断ったり、本来なら喜ぶべき出産の場面ですら、家族が自由に会うことも許されなくなりました。基本的な人間のあるべき権利を否定することに近いような状況が、医療現場においては当たり前のようになっていたのです。
このような状況下に置かれ、医療従事者にとって「医療機関の安全」が最優先事項となり、「病気を治す場所である」という当たり前のことへの対応が困難になってしまったことに、私は違和感を覚えるようになりました。
当時の状況を考えると仕方のないことですし、軽はずみに本音を口に出すことはできません。だからこそせめて、自分の責任の及ぶ範囲で自分の思いを伝え、目の前にいる患者さんが求めていることにきちんと応えられる場所を作りたいと強く思い、独立を決意しました。

ークリニックの名前やモチーフに使われている「てんとう虫(レディ・バード)」にはどんな意味が込められているのでしょうか
開業にあたり、クリニックの名前を考えている時に偶然観たのが、『レディ・バード』という映画です。Ladybirdとは、日本語で「テントウムシ」を指します。婦人科系のクリニック名でよく見かける「レディース」と響きが似ていることから気になって調べてみたら、幸運を運ぶ昆虫として、良いイメージを持たれていることが分かりました。
漢字では「天道虫」と書くように、テントウムシは上に向かって飛び立つ習性を持っています。そのイメージが女性達に送るエールと重なり、レディーバードクリニックと名づけました。
悩みを抱えている人に「大丈夫」だと前向きに伝えたい
ー丸尾先生はSNSでさまざまな情報を発信しておられますが、どのような思いで取り組まれていますか
インターネットが普及した今、医療に関する情報は、誰でも簡単に調べることができます。ところが、調べれば調べるほど「この症状に当てはまる方は、こんな病気にかかっている可能性があるかもしれません」など、不安をかきたてるような情報ばかり出てくるのです。
私は「自然派ドクターまるちゃん」として、患者さん自身の自己治癒力を高めるアプローチを大切にしています。緊張状態や体の冷えが不調につながることも多いため、身体を温める方法やリラックスする方法など更年期や生理痛、PMSの悩みと向き合うためのさまざまな情報を発信しています。
私が発信することで、悩みや不安を抱えている人が「大丈夫」だと安心し、少しでも楽に生きられるような手助けをしたいとの思いで取り組んでいます。
ー更年期に悩む患者さんと関わる中で、心がけていることはありますか
私が更年期の患者さんと向き合う時は、「自分の本当に気持ちに気づくことから始めませんか」と、患者さんの悩みをじっくりとお聞きすることから始めます。
更年期とは、加齢に伴い閉経が近づいてきて女性ホルモンの分泌が不安定になり、体調を崩しやすくなる期間です。人それぞれ個人差はありますが、胸から上の部分が急に熱くなるホットフラッシュや、めまい、イライラ、気分の落ち込みといった症状が現れます。
しかしながら、この年代の女性は、自分のことよりも周りの都合を優先し、「とりあえず市販薬を飲んで様子をみよう」と我慢してしまう傾向にあるようです。症状が重くなり、辛さを我慢できなくなってから、クリニックを受診される方が多いですね。
更年期は、精神的な安定も大きく関係していますから、うまく乗り越えるためには、周りの人々の理解と協力を得ることも大切だと考えています。
更年期の症状が軽く、幸せそうに見える人は、自分自身を優先することが上手な人だと思いますね。逆に、周りの人に気を遣いすぎ、無意識に自分の感情を抑えるタイプの人は、ストレスが溜まり、更年期の症状が重くなりがちです。
ストレスの他にも女性が体調を崩す要因としてよくあるのが、「体の冷え」です。生活習慣を改善し、体を温めることで、体調が楽になることもあるのです。
ホルモン剤の使用など、症状を和らげるための治療も行いますが、じっくりとお話しを伺いながら、患者さんがご自身の心と身体に向き合い、気づきを得るためのサポートをするのが私の役割だと思っています。
自分の身体の状態に自分で気づいて、整えることで「ああ、本当に楽になるんですね。」というお声をいただくと「そうでしょう」と嬉しく思います。
私は男性ですから、生理痛や女性特有の悩みを体感したことはありません。女性の痛みや辛さが分からないからこそ、患者さんの困りごとに耳を傾け、改善した体験を他の患者さんに伝えることが私にできる最善策だと思っています。
時には、患者さんは自分の悩みを話すことで、自身の状態に気づくこともあります。医師に相談することで自分を見つめ直すことができ、患者さん自身が改善への答えを見つけられるようなサポートをすることも大切にしていきたいですね。
もちろん、薬やホルモン剤を処方すれば辛い症状を効果的に抑えることができる一方、人によっては副作用が出てしまう場合もあります。2〜3年で過ぎる更年期をなるべく薬に頼らずに乗り越えられるよう、患者さんと向き合いたいと思っています。

更年期は自分を見つめ直して、その先の“光年期”へ
ー先生はSNSで更年期の先を「光年期」と表現されておられますが、どのような思いを込めていらっしゃいますか
実は、「光年期」という言葉は、私の言葉ではなく間接的に知っている人が使っていて、素敵だなと感じた言葉です。
一般的に、更年期という言葉には、「女性としてもう終わった」などという、ネガティブなイメージしかありませんよね。更年期と言われて喜ぶ女性はほとんどいないと思うのです。
しかし、女性は若い頃から生理に振り回され、辛い思いをしています。更年期は、閉経へと向かう体の変化に揺り動かされる時期で、その先には生理から解放される明るい未来が待っています。50代・60代になっても、まだまだ女性として輝ける。そんな風に前向きに捉えることで、受け止め方が変えられると思います。
ー更年期で悩んでおられる方や、これから更年期を迎える方にメッセージをお願いします
誰かに自分のしんどさを伝えるって、すごく大切なことですよとお伝えしたいです。
「更年期」という話題は人と共有しづらい悩みだと思いますが、つらいと感じていることをしっかりと吐き出すことで、楽になることもあります。その際は、つらさに共感できる人や気持ちを楽な方向に向けてくれる人に話すことをおすすめします。
私が患者さんのお話をしっかり聞く時間を大切にしているのも、患者さんが自分自身と向き合うきっかけにしたいという思いからです。
なにより自分を一番に優先して考え、ストレスを溜めないようにリラックスしながら、なるべく穏やかな気持ちで過ごしてください。自分を最優先に考えるべきだということに気づければ、きっとはつらつとした50代・60代を迎えられるはずです。
オリジナルブレンドのスパイスでチャイを楽しむ
ー丸尾先生が気持ちをリセットしたい時に行っているリフレッシュ法を教えてください
朝に余裕のある時は、自分でチャイを作って楽しんでいます。チャイは紅茶にミルクとスパイスを入れて作るのですが、カルダモンやグローブ、ペッパーなどのスパイスを自分で配合しています。
スパイスを砕いたり、香りを嗅ぎながら入れて作る工程も楽しいですし、ちょっとした配合の違いで、味や香りも変わります。

もちろん、市販のチャイミックスを使っても、十分に美味しいとは思いますが、スパイスの配合を少しずつ変えながら試行錯誤し、感覚を研ぎ澄ます時間が、私のリラックスタイムです。配合がうまくいくと「よし!今日もいけるな」と気分が上がります。
(取材:2025年2月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。