働き盛りの男性更年期 ココロとカラダの両面からアプローチ【医師 伊藤 義浩】

更年期
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やる気の低下や気分の落ち込み男性更年期の心と身体に寄り添います
ココカラハートクリニック 院長 伊藤 義浩

伊藤 義浩

ココカラハートクリニック 院長

日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本心臓リハビリテーション学会心臓リハビリ指導士、日本臨床栄養学会臨床栄養医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定スポーツ医

藤田保健衛生大学(現 藤田医科大学)医学部を卒業。名古屋記念病院で初期臨床研修を修了し、その後は碧南市民病院榊原記念病院(東京)、愛知県立循環器呼吸器病センター(現在は閉院)、藤田保健衛生大学病院船戸クリニック(岐阜県養老町)などで経験を重ねる。2014年4月、​​名古屋市東区に「ココカラハートクリニック」を開院。

カラダの不調の原因はココロにある。自身の不調をきっかけにクリニックを開業

――伊藤先生が医師を志したきっかけを教えてください

「人と関わる職業に就きたい」「人を助ける仕事に就きたい」という思いがあり、実は教師になりたいと考えていた時期もありました。教育か医療かで迷っていた中で、両親が医療系の仕事に携わっていたこともあり、最終的に医師の道を選びました。

ココカラハートクリニック ホームページ
2014年に「ココカラハートクリニック」を開業
https://cocokara-heartclinic.com/

――クリニックを開業された経緯について教えてください

医師になったばかりの頃は、大学病院の第一線で活躍することに魅力を感じていましたが、次第に地域医療や高齢の患者さんに寄り添う医療にも強く惹かれるようになりました。

2014年、「ココカラハートクリニック」を開業しました。開院当初から「患者さまとその家族の心と体がいつも健康で元気であること」を目指して、「心と体のケア」「統合医療」「訪問診療」の3本柱に力を入れて診療を行っています。

一般内科、循環器内科、心療内科、精神科、皮膚科などそれぞれを専門とする医師が在籍していて、1人の患者さんの症例に対して複数の医師が連携し、様々な視点から診断することができる点が当院の強みです。

この土地(名古屋市東区)を選んだ理由は、自分が中学・高校時代を過ごした場所であることと、生まれ育った名古屋の地に貢献したいという思いがありました。久屋大通公園のそばという、東海地方の中でも特に緑の多い中心部に位置し、自然環境に恵まれた場所です。

「ココカラハート」というクリニックの名前は、「ハート」には、心臓とココロの両方を意味し、「ココカラ」には、“心(ココロ)と身体(カラダ)のココカラ”と“この場所から元気になっていく、生まれ変わっていくのココカラ”の2つの意味が込められています。

クリニック 入口
クリニック 受付

――ご自身の不調をきっかけ精神科領域についても学ばれるようになったそうですね

もともと私は、心臓疾患などの救急医療を中心に診療してきた内科医でした。救急の現場では、一刻を争う緊張感の中で日々の診療にあたっていましたが、私自身次第に頭痛や動悸、不眠といった不調が続くようになりました。不整脈や頭蓋内疾患など内科疾患などを疑って検査を重ねても明確な原因は見つからず、なかなか症状は改善しませんでした。

そんなとき、尊敬する心療内科の先生に相談したことで、身体の不調の背景にメンタルの問題があることがわかってきました。ストレスの高い状況が長期間続いたことで、自律神経のバランスが崩れていたようです。こうした状態は、手術や薬だけで改善するものではなく、働き方や生活の見直し、そしてメンタルのケアを含めて、じっくり取り組む必要があることを実感しました。

自分自身がそうした経験を通じて心と身体の関係に向き合ったことが、精神科領域への理解や関心を深めるきっかけになりました。そしてその経験が、現在のクリニックを開業する動機にもつながっています

――診療時に心がけていることや、大切にされていることはありますか

まずは、患者さんのお話をしっかりと聞くことを大切にしています。

他の医療機関で「異常はない」と言われたものの、体調不良が続いて来院される方が、当院には本当にたくさんいらっしゃいます。そういった方のお話に丁寧に耳を傾けることで、病気が隠れていないか、あるいは心の問題が原因ではないかを見極めるようにしています。

お話をじっくり伺うことで、原因が明らかになり、適切なアプローチができることも多くあります。実際、他院では異常がないと言われた方が、当院で数回の治療を受けることで症状が改善した例もあります。

また、お話にしっかり耳を傾けるだけでも「こんなに丁寧に話を聞いてくれる先生なんだ」と思っていただけることで信頼関係が築けます。信頼があると、その後の治療もスムーズに進みます。

当院では漢方もよく用いますし、必要に応じて鍼灸などの代替医療も併用します。そうした多面的なアプローチによって、ゆっくりではありますが、確実に回復されていく方が多くいらっしゃいます。

クリニック 院内

男性更年期の症状は「身体的症状」「精神的症状」、そして「性機能の低下」

――男性更年期について、更年期が疑われるような不調で受診されるきっかけはどのようなことですか

受診のきっかけにはいくつかパターンがあります。

一つは、「気持ちが落ち込む」「やる気が出ない」といった、うつ病に近い症状を感じて受診されるパターンです。他院でうつ病と診断され、治療を受けても改善しないといった経緯で当院に来られる方もいらっしゃいます。

もう一つは、「なんとなく疲れやすい」「元気が出ない」といった漠然とした不調で受診されるパターンです。ご自身では、年齢のせいだと半ば諦めていたところ、パートナーから「もしかして男性更年期じゃないの?」と受診を勧められて、当院にいらっしゃることもあります。最近メディアなどでも「男性更年期」が取り上げられることもあって、ご本人や周囲から受診を勧められることが増えてきている印象ですね。

「気持ちが落ち込む」「やる気が出ない」「元気が出ない」男性更年期の症状

――どのような症状があれば受診を考えた方が良いでしょうか?セルフチェックのポイントなどがあれば教えてください

たとえば、気分の落ち込み、やる気の低下、体が重く感じるといった症状が続く場合ですね。男性更年期の場合、女性よりも幅広い年代で起こるのが特徴で、40〜50代を中心に、早い方は30代後半、さらには60〜70代にかけて発症することもあります。

症状は主に三つのカテゴリーに分かれます。一つ目は「身体的な症状」で、疲労感、のぼせやほてり、筋力低下、動悸、頭痛などがあります。二つ目は「精神的な症状」で、不安感、不眠、食欲低下、集中力の低下などです。三つ目が性機能に関するもので、性欲や勃起力の低下などが含まれます。

――日常生活の中で、症状を改善できる方法はありますか?

日常生活の中で男性更年期の症状を改善するためには、男性ホルモンの分泌を促すような生活習慣を意識することが大切です。まずは、規則正しい生活を心がけること。そして、運動やバランスの取れた食事を継続することで症状が軽減したり改善したりすることがあります。

適度な運動やバランスの取れた食事

特に食事面では、「タンパク質」をしっかり摂ることが重要です。良質なタンパク質は、ホルモンの生成や筋肉の維持に欠かせません。

タンパク質は卵や肉類、魚、牛乳、大豆などに多く含まれています。また、ニンニク、ニラ、ネギ、アボカド、ニンジン、ヤマイモなどと一緒に摂ることで、テストステロンの増加が期待できると言われています。たとえば、焼肉にニンニクを加えたり、肉にニラやニンジンを加えて炒めたりするなど、日々のメニューに工夫を取り入れてみてください。

さらに、無理のない範囲で体を動かし、「筋肉」をつけていくことも大切です。筋肉量の増加はテストステロンの分泌にも良い影響があります。

そしてもう一つ大切なのは「自分の好きなことを楽しむこと」です。趣味の時間を持つことも、ホルモンバランスを整えるうえで大きな意味があります。

――更年期の女性からは「イライラする」といった気持ちの変化をよく伺いますが、男性でもイライラする症状が出ることはありますか

「イライラしやすくなった」「感情的になってしまい家族や部下にキツくあたってしまう」と訴える方も中にはいらっしゃいますが、印象としては、むしろ「元気がなくなってしまう」「気力がなくなる」という症状のほうが多いですね。

女性の更年期にはイライラや攻撃的な感情の変化が出やすい印象がありますが、男性の場合はもう少し内向きで、「しょんぼりとしてしまう」ような状態の方が多いと感じます。症状の半分以上は、集中力の低下や無気力、不眠、不安感といった精神的なもので占められていて、イライラは1〜2割程度という印象です。

「男性にも更年期がある」ということを知ってほしい

――パートナーができるサポートには、どんなことがありますか

まずは、相手の変化に気づいて、優しく声をかけてあげることでしょうか。もし自分自身が更年期だったときに「こうしてほしいな」と思うことを、同じように男性にもしていただけたらと思います。

たとえば、そっとしておいてほしいときもあれば、手伝ってほしいときもある。責めないでほしい、優しくしてほしい、そういった気持ちは、男性にも共通しています。

「もっと頑張って」や「昔はできていたのに」「他の人はそんなことないのに」といった声かけは、励ましのつもりが、逆効果になってしまうこともあります。「怠けているわけじゃない」「更年期だから仕方ないよね」と、少し広い心で見守ってもらえると、きっとご本人も救われると思います。

男性更年期への理解が大切

――伊藤先生ご自身も、更年期の症状を感じることがあると伺いました。どのようなきっかけで気づかれましたか

私も現在49歳で、まさにその真っただ中にいる年代です。正直なところ、ずっと忙しくしていたので、自分が更年期なのかをあまり気にしたことはありませんでした。日頃から運動もしていたので、なんとかごまかせていた部分もあったと思います。

あるとき、患者さんから「先生も一度ホルモン値を測ってみたらどうですか」と言われたことが、自分を振り返るきっかけになりました。実際に測ってみると、思った以上に数値が低くて驚きました。今思えば、以前と比べて疲れやすくなっていたり、力が出にくいなと感じることもあったので、そうした変化を受け入れるきっかけになりました。

40代以降、多くの方は責任のある立場となり、見えないプレッシャーを抱えて「頑張らなきゃ」と無理をしてしまいがちです。なかなか自分の変化にも気づきにくくなってしまう中で、周囲のひと言が、気づきのきっかけになることもあるんだと実感しました。

――読者へのメッセージをお願いします

まずはなにより、女性と同じように、男性にも「更年期」があることを知っていただきたいと思います。お互いに気づき合い、支え合いながら過ごしていければ、きっと一緒に元気になっていけるはずです。

人生100年時代、40代はまだまだ人生の折り返し地点です。これからの生活をより良く過ごしていくためにも、心身の変化に目を向け、必要であれば専門機関に相談することが大切です。

ただ、残念ながら、男性更年期の多岐に渡る症状をしっかり診ることのできる医療機関はまだ多くはありません。

先ほどお話ししたように、身体症状が強ければ内科、精神的な不調であれば心療内科や精神科、性機能の悩みであれば泌尿器科といったように、症状に応じて診療科を選ばれると良いでしょう。

当院では心療内科と内科を併設しているため、心身の不調を包括的に診ることができます。まずは「自分の今の不調はどのタイプだろう」と整理し、必要に応じて情報を集めてみてください。

伊藤先生
男性にも「更年期」があることを知ることで
ご夫婦で気づき合い、支え合いながら一緒に元気になっていけるはずです

日常的に身体を動かすことでリフレッシュ

――最後に、伊藤先生のリフレッシュ方法について教えてください

日々、身体を動かすことでリフレッシュしています。

休日には、名古屋城の周辺をジョギングしています。名古屋城の周りは自然も多く、気持ちのいいランニングコースで、東京でいう皇居ランのような感覚ですね。ただ走るだけでも気持ちが良いのですが、周辺のごみを拾いながら走る「プロギング」も実践していて、心身ともにリフレッシュしています。

日常的には、診療前にジムでサーキットトレーニングを行っています。朝から本格的なトレーニングをしてから仕事をするので驚かれることもありますが、習慣にしてしまうとむしろ体が疲れにくくなります。ストレッチも取り入れて、体のケアを大切にしています。

ただ、あまりストイックになりすぎず、夜にはお酒を楽しむこともあります。友人や家族と過ごす時間、一人で飲みに行く時間も自分にとっては大切なリフレッシュです。

(取材:2025年5月)


本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。

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