『ただ倒れていただけ』の日々を漫画に。更年期うつを経験した漫画家ふくろみゆさんが伝えたいこと【体験談インタビュー】
目次
会社員から36歳で漫画家に。きっかけは担当編集者との出会い
――「36歳で漫画家になった」という経歴がとても気になりました。漫画を描き始めたきっかけを教えていただけますか
会社員を10年弱続けていたのですが、どうもしっくりこず、自分には合わない気がして、他の生き方を模索していました。もともと美術大学を卒業し、ゲーム会社で3DCGを作成するなどデザイナー職で絵が描けたので、「漫画にもチャレンジしてみよう」と思ったことがきっかけです。
――絵を描くことは昔からお好きだったんですね
はい。子どもの頃から、絵を描くことが大好きでした。中学生の頃から漫画は描いていましたが、誰かに見せることはほとんどありませんでした。
転機となったのは、カルチャーセンターで漫画家の先生の講義を受けたことです。それをきっかけに漫画賞へ応募するようになり、そのうちに担当編集者の方がついてくださいました。「この道なら続けていけるかもしれない」と感じ、思い切って会社を辞め、本格的に漫画家として活動を始めました。
――ブログやSNSでの発信もされていますが、それはどのような経緯だったのでしょうか
実は、一度担当編集者さんがついてくださった企画がボツになってしまったことがあって。
その時、完成していた漫画が宙に浮いてしまったんです。でも、「この作品を誰かに見てほしい」という気持ちが強く、Webに投稿することにしました。すると、それを見た新しい編集者さんから声がかかり、最終的に書籍化していただけることになったんです。本当にラッキーでしたね。
突然のうつ状態。起き上がれなかった3ヶ月間
――今回は「更年期」をテーマにお話を伺います。ふくろみゆさんご自身も大変な思いをされたそうですが、どのような症状だったのでしょうか
はい。一番ひどかったのは、うつ状態になって起き上がれなくなってしまったことです。
はじめに食事が摂れなくなり、吐き気がひどく、ゼリー飲料などでなんとかしのいでいましたが、体重も5kgほど落ちてしまいました。めまいも強く、外出も不安になりました。
通院だけはなんとか続けていたのですが、その時はホルモン療法ではなく、ピルの服用を勧められました。ただ、処方されたピルが体に合わず副作用も出てしまい、治療を中断せざるを得ない状況に。
その後は完全に寝床から出られなくなってしまい、全く起き上がれない期間が3ヶ月ほど続きました。

ふくろみゆさんのnote(https://note.com/fukuro)より引用
――ご自身の辛い体験を漫画に描くというのは、エネルギーのいる作業だったのではないでしょうか
そうですね。ただ、私にとってはこの「倒れていただけの日々」を「何としてでも表現に転換したい」という強い欲求が原動力となりました。
もちろん、症状の真っただ中にいるときは、机に向かうことすらできませんでした。少し症状が落ち着き、自身を客観的に見られるようになってから描き始めた、という状況でした。
「誰かに届いてほしい」という思いが、描く力になっていましたね。
回復の手がかりをSNSで。1年かけて取り戻した日常
――起き上がれないほどの状態から、どのようにして回復されたのでしょうか
少しでも体調が良いときには、回復の糸口を探そうと、ひたすらインターネット動画やSNSを見ていました。その中で、同じように食欲不振に悩みながらも、精神薬で回復したという方の投稿を見つけたんです。
「もしかしたら自分にも合うかもしれない」と思い、勇気を出して初めて精神科を受診しました。それが、回復の大きなきっかけになりました。
――精神科を受診されて、すぐに効果はありましたか
いいえ。最初に出していただいた薬は合わず、副作用も強いものでした。その時は治療を続けることにためらいが生まれたのですが、「もう後がない」という気持ちで、薬を変えていただきました。
そこから少しずつ回復に向かい、月のうち20日間ほど起き上がれるようになるまで、結局1年くらいかかりましたね。
「なんとかやり過ごす」に焦点をあてる。同じ悩みを持つ人との仲間意識
――今まさに同じような症状で苦しんでいる読者の方へ、メッセージをいただけますか
そうですね…。SNSで繋がっている方の中にも、明らかに症状が重い方がいらっしゃいます。いつも「良くなってほしい」と祈っていますが、私と同じ薬を飲んでも回復するとは限りませんし、経過も人それぞれです。
私の場合は薬に頼ることで改善に向かいましたが、正直なところ、今でもそれが正解だったのかはわかりません。ただ、とにかく「この苦しい状況を何とかしたい」という一心でした。
その苦しさがどれほどのものか、身をもって知っています。だからこそ、同じ状況の方に安易に「がんばって」とは軽々しく言えません。
誰かと比べなくていいし、前向きになれなくてもいいと思います。その立場にいると、本当にどうにもできない状態というものがあるんです。私にとっては、がんばるというより「なんとかやり過ごして、生き延びる」という感覚でした。
SNSなどを通じて、同じ悩みを持つ方との間に生まれた“仲間意識”には、とても救われました。
机から離れる勇気。日常の“小さな贅沢”で気分転換
――最後に、ふくろみゆさんのリフレッシュ方法を教えてください
とにかく机やパソコンから物理的に離れて、距離を取ることです。ありきたりですが、川沿いを散歩したり、あとは物価高ですけど、あえて自販機でちょっと高いジュースを買ってみたり、小さな贅沢が気分転換になったりします。
そういう地味なことですが、作業から意識を切り離して、日常とのコントラストをつけることで、少しリフレッシュできているかなと思います。
「描くこと」と「休むこと」、どちらも私にとって大切な時間になっています。
(取材:2025年10月)
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