女性が安心してかかれる婦人科を。「我慢しなくていい」と全ての人に伝えたい【医師 藤田 由布】

“想い”の向くままアフリカへ、そして医師の道へ
ー藤田先生が医師を目指したきっかけを教えてください
私が医師になったのは37歳の時です。医師になるまでは、青年海外協力隊や国際協力に関わる財団の職員などをしながら10年に渡ってアフリカに関わり続けてきました。
青年海外協力隊の存在を知った時から「私はこれに行く」と思っていましたし、そもそも物心ついた時からなんとなく、「開発途上国に関わる仕事をしたい」「アフリカで仕事をする」という想いをずっと持っていました。
その想いのまま、大学卒業後青年海外協力隊に応募し、アフリカへ赴き、感染症に関わる活動に取り組みました。

「なぜアフリカに興味を持ったのか」とか「青年海外協力隊をどうやって知ったのか」など、最初のきっかけは遠い昔過ぎて記憶にありませんが、アフリカへの想い、アフリカでの経験が現在まで大きく影響していることはたしかです。
アフリカでは、マラリアやポリオ、エイズ、ギニアワームという感染症に関わる活動の中で、誰も行かないような奥地の貧困地域をまわることが多くありました。疫病や飢餓、感染症などで目の前で多くの命が奪われていく場面に遭遇するたび、医療技術がない自分の無力さに打ちのめされました。「なんとかしたい」と思いながらも「自分は医師じゃないからどうしようもない」と思ってきました。
青年海外協力隊のほか、国際協力に関わる財団の職員や、開発学、ヘルスプロモーションを大学院で学びながら10年ほどアフリカに関わり続けました。次にアフリカで仕事をする機会があれば、医療に携わりたいと思い、2008年に医師免許を取得するため医学部に進学する決意をしました。
日本で医学部に入学しようと思うと何年も浪人しなければ難しいですが、海外では入学はしやすく、すぐに学び始められるのがいいと思い32歳で海外の医学部に入学しました。
英語での講義や研修は本当に大変でしたが、「絶対に6年間で医師免許を取る」という目標を掲げ、1日18時間、勉強漬けの日々を過ごし、なんとか37歳でヨーロッパの医師免許を取得。38歳で日本の医師免許も取得しました。
「アフリカに行く」「医者になる」、とにかく自分の強い思い込みに突き動かされています。
ー産婦人科医を選んだのはどのような経緯があったのでしょうか
産婦人科を選んだのも、やはりアフリカでの経験が影響しています。
アフリカでは、初産の平均年齢はおおよそ13歳です。また医療従事者の介助無しで自宅分娩するケースも多く、初産の女の子が四つん這いになってお産している場面に何度か立ち会ったことがありました。
出産後、胎盤がなかなか出てこない時は、咳き込ませたり、重たいものを何回も持ち上げさせたり、伝統の薬を使ったり、村の女の人たちの手によってなんとか腹圧をかけて胎盤が出るように促します。
立ち会ったお産の中には、お産中に出血多量になり、病院に搬送されるも間に合わなくて、母子ともに亡くなってしまいました。そういう現実を目の当たりにし、私自身が女性の健康を守り、女性の味方になれるような医師になりたいと思い現在に至っています。

我慢は日本女性のお家芸、「我慢しなくていい」を全ての人に伝えたい
ー現在は日本で産婦人科医をされていらっしゃいますが、日本ではどんな患者さんが多いですか
とにかく日本の女性は我慢しすぎていると感じています。当事者自身も、周囲からも、我慢することが当然と思われていることがすごく腹立たしいというか悲しいです。
クリニックを受診された方に、「生理痛とか困っていませんか?」と質問をすると9割の方が「鎮痛薬を飲んでるから大丈夫です!」って答えてくれるんですよね。毎月鎮痛剤を飲んでやり過ごしていること自体正常とは言い難く、「大丈夫」ではないのです。
よくよく話を聞くと、「昼間でも夜用のナプキンを使ってる」とか「レバー状の塊が出る」とか、しんどいなという状態でもこれが自分の普通だと思って我慢しているんですよね。
現代では、初潮の平均年齢が12歳、閉経は50歳です。38年間、回数でいうと450〜500回ほど(※平均周期で数えた場合)生理とつきあわなければいけません。昭和初期の女性は、生理の回数が人生で50回ほどだったので10倍も差があります。
出産回数が減ったので生理の回数が増え、生理のある期間が長くなったことで、月経困難症や子宮内膜症などの病気が増えているとされています。毎月おこる生理そのものが、子宮や卵巣にダメージを与えているということです。

生理と子宮の疾患の関係性がなかなか日本では浸透しにくかったこともあって、低用量ピルの普及も海外と比較するとすごく遅れをとりましたよね。
患者さんから聞いた話や現場での印象にはなりますが、低用量ピルやジエノゲスト※を飲んでいると妊活もスムーズに進められていると感じています。月経の回数を減らすことで、生理痛などのお悩みの軽減はもちろん、子宮や卵巣を守ることにもつながります。
※月経痛の改善や、子宮内膜症や子宮腺筋症に伴う月経時以外の痛みの改善に用いられるホルモン剤
ー生理って毎月のことながら、誰かに正しく教えてもらう機会はあまりなかった気がします。母娘や友人でもそれぞれに生理の重さって違うので、自分が異常かどうかって判断しにくいですね
そうですよね。お母さんに相談しても「お母さんの頃はそんなの我慢してきた」と言われてしまうこともあるみたいですね。
生理は我慢しなくていい、ということを初潮を迎える年代から教育していくのが大事なのではないかと思います。それも男女ともにですね。クラスの中に、生理でしんどい思いをしている女子がいるって教えることも性教育なのではないかなと。
ピルの話なども、男女どちらにも正しく知ってほしいですね。「ピル飲んでる女はXXX」みたいなひどいイメージってまだ根強いじゃないですか。変な情報を取り込んでしまう前、まだ性とかピンときていない年代から、当たり前に教えていくって大事だと思います。
いわゆる”性教育”と呼ばれる教育が、日本では消極的というか重要視されていない。性教育という言葉自体も語弊があったり、抵抗がある方もいますよね。人間教育とか健康教育という呼び方に変えてしまえばいいのにと思います。

女性が安心してかかれる婦人科を
ー先生にとって産婦人科でのやりがいは何ですか?
やっぱり不妊治療してる患者さんが、妊娠できましたー!と言っていらっしゃる時はうれしいですよね。その生まれた赤ちゃんを連れて、また受診にきてくれたらもう「おかえり」って感無量です。
あとは、質問の多い患者さんが好きです。
他では話せないような内容でも相談してくれる方とか、こちらの話を一生懸命聞いてくれる方。ご自身の体のことを知ろう、知りたいと思って質問してくれているという事なので、「先生もうひとつ質問いい?」って言われる時は、「もっとこいや!」ってうれしくて気合いが入ります。
関西のローカル番組に出演することがあるんですけど、おそらく番組を見た方が「このおばちゃんやったら話し聞いてくれそう」と思って親子で来てくれた時とか、受診の敷居が低くなって安心してもらえてると実感できてうれしいですね。
先ほどもお話ししましたが、どうして日本人女性ってこんなに我慢してるのか、日本人女性って世界の中で最も我慢してる民族なんじゃないかな、という怒りに似た感情を、全力で診療に向けることが今のやりがいです。

ー読者へのメッセージをお願いします
産婦人科受診の敷居がもっと低くなるよう、医療側がもっと努力をしていかなあかん!と思っています。
「本当にしんどいのに、これぐらいで産婦人科に行っていいんだろうか」とか「私は人よりも我慢できない子なんだ」とか思わせることがないように、気軽に相談できる場所として婦人科を選べるようにしていくことが私の使命だと思っています。
その辺を歩いているおばちゃんに話しかけるくらいの気軽さで来てもらえたらええなって思います。
友人とワイワイしゃべってリフレッシュ
ー最後に藤田先生のリフレッシュ方法を教えてください
居酒屋に行く、つまりお酒をのむことです。昨年は、年初にお酒を断つという宣言をしましたが、結局休肝日は3日だけでした。
でも友人と楽しくわいわいおしゃべりすることが好きですし、そこでしっかり発散してリフレッシュしています。
(取材:2024年12月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。