婦人科・内科・乳腺の専門性を活かして、女性の「からだ」と「こころ」によりそう医療を【医師 恒川 美香子・藤吉 惠津子】

目次
100年以上続く地域に根ざした医院で、女性の健康をトータルにサポート
――藤吉先生と恒川先生が医師を志したきっかけを、それぞれお聞かせください
藤吉先生:私は、父が医師だったことが一番のきっかけです。町医者として働く父の姿を幼い頃からずっと見てきました。訪問診療にも積極的に取り組んでいて、夜間でも快く患者さんのもとへ向かう父の姿を、私はとても尊敬していました。
父の仕事への姿勢を間近で見るうちに、「私も誰かの役に立てるような仕事がしたい」と思うようになり、自然と医師を目指すようになりました。
産婦人科医を選んだ理由としては、やはり女性として、より身近なところで「役に立てる」と感じたからです。女性にはさまざまなライフステージがあり、それに伴っていろいろな悩みが生まれます。小さな困りごとや不安を誰かに相談したいこともあると思います。
そうしたときに、友人のような立場で相談に乗ったり、支えになれたりする存在でありたいという思いから、産婦人科医の道を選びました。
恒川先生:私のキャリアは、一般消化器外科で外科医としてスタートしました。その後、乳腺外科にも携わり、長く外科医として勤務してきました。
父が産婦人科医で、実家の医院を継ぐことになった際、私自身も産婦人科について学びを深めてきました。現在は手術は行っていませんが、これまでの外科医としての経験を活かしながら、乳腺や甲状腺などの診療を続けています。これらの疾患は女性に多く見られることから、女性の患者さんを中心に、婦人科を含めて幅広く診療させていただいています。

――藤吉医院で婦人科専門の外来を担当されるようになった経緯をお聞かせください
藤吉先生:当院で婦人科の専門外来を立ち上げたのは、今から2年ほど前になります。もともと父が内科のクリニックを開いていた中で、私が産婦人科専門医の資格を取得したタイミングで、少しずつ婦人科外来を始めたという経緯です。
恒川先生はそれ以前から他院で婦人科診療もされていましたが、当院でもご一緒していただけることになり、現在は一緒に婦人科診療を行っています。私自身は普段は東京を拠点にしていますが、隔週で大阪に戻り、診療にあたっています。
恒川先生:当院は婦人科と内科、両方の視点を持っているというのは大きな強みだと思います。患者さんの訴えが、内科的なものなのか婦人科的なものなのか、初診の段階では判断が難しいこともあります。
たとえば内科を受診された方が、実は婦人科の症状だったということもありますし、その逆もあります。そういったときに、院内でスムーズに連携して診療を進められるのは、患者さんにとっても安心につながるのではないでしょうか。婦人科だけに特化するのではなく、内科的な視点を持って診ることができる点が、私たちのクリニックならではの特長です。
藤吉先生:また当院では、あん摩マッサージ指圧師によるマッサージ施術を受けることもできます。
婦人科を受診された方の中には、特に異常は見られなかったものの、「なんとなく体がしんどい」と感じておられる方もいらっしゃいます。そういった方には、マッサージ※を受けていただいてからお帰りになることもあります。体も心も、少しでも軽くなっていただけたら嬉しいですね。
※症状のある方はご相談ください。保険適用外でリラクゼーション目的のマッサージもあります。
患者さんの言葉にじっくり耳を傾け、的確な診断につなげる
――患者さんと向き合う上で意識していること、心がけていることはありますか
藤吉先生:「何でも話せる医師」であること、そして「会いに行きたいと思ってもらえる存在」であることが、私が目指す医師の姿です。
婦人科のクリニックは、「行きたくないな」「なんだか気が重いな」と思われがちな場所です。しかしながら、自分にとって信頼できるドクターやクリニックが身近にあることで、「ちょっと相談してみようかな」「行くだけで気持ちが軽くなるな」と感じてもらえたら嬉しいなと思っています。
そのためにも、できるだけ診療は明るく、安心感のある雰囲気を心がけています。たとえ検査で何か異常が見つかったとしても、「今のタイミングで見つかってよかったですね」と前向きな気持ちで受け止められるように、患者さんの気持ちに寄り添いながら明るく前向きな診療を意識しています。
恒川先生:私も基本的には、藤吉先生と同じように、まずは患者さんのお話をしっかり聞くということをとても大切にしています。特に婦人科では、「こういう症状があるから、きっと更年期だと思います」と、ご自身で診断をつけて来院されるケースもよくあります。
ですが、その背景には、実は重大な疾患が隠れていることもあるんですよね。たとえば内分泌の病気だったり、場合によっては心臓の異常や脳腫瘍が原因となっているケースも考えられます。
そうした可能性を見逃さないためにも、症状の経緯や背景を丁寧に伺いながら、しっかりと診断につなげていくことを心がけています。患者さんの言葉にじっくり耳を傾けることが、的確な診療につながると考えています。

――安心感や信頼感を持ってもらうための患者さんとのコミュニケーションの工夫は、何かありますか
藤吉先生:そうですね。患者さんによって、何をもって納得されるかはさまざまだと感じています。数値などの客観的なデータを見て納得される方もいれば、検査結果を詳しく説明することで安心される方もいらっしゃいます。特にホルモンの値などは、ご自身で見て「やっぱりそうなんだ」と理解される方が多い印象です。
それでも不安が拭えない方には、必要に応じてさらに詳しく調べてみることをご提案することもあります。当院は内科も併設していますので、婦人科と連携しながら内科的な視点での診察を行ったり、お腹のエコーを併せて確認したりすることで、より多角的に状態を把握していただけるよう努めています。
また、診察時の伝え方や雰囲気も大切にしています。同じような年代や状況の方が経験していることをお話ししたり、背景にストレスなどの影響がないかを一緒に考えたりと、別の視点からの可能性も探るようにしています。そうしたやりとりを通じて、少しでもご自身の状態に納得し、安心していただけるよう心がけています。

――医師としてやりがいを感じるのはどんな時でしょうか
恒川先生:症状が改善して、患者さんが元気になっていく姿を見ることが、何よりのやりがいです。婦人科では、例えば過多月経や月経困難症などで、気分が落ち込み、うつ状態になってしまい、外出するのも難しくなってしまう方もいらっしゃいます。
そうした方が、治療によって「人生が変わりました」「外に出られるようになりました」と笑顔でおっしゃる姿を見ると本当に嬉しく思います。少しでも日常を取り戻すお手伝いができることが、この仕事の一番の喜びですね。
藤吉先生:私は、診察を通して「安心しました」と言っていただけたり、笑顔で帰っていただけるときに、やりがいを感じます。
特に心に残っているのは、中学生の患者さんとのエピソードです。彼女は月経困難症と貧血の症状で受診され、鉄剤やピルを使いながら治療を進めていきました。その結果、少しずつ体調が整い、学校にも通えるようになっていきました。
そんな彼女が、卒業文集に「憧れの人」というタイトルで、私との出会いや通院のことを丁寧に綴ってくれていたのです。それを読んだとき、「自分の仕事が誰かの人生にしっかり関わることができたんだな」と実感し、本当に嬉しく思いました。
その文集は、今でも気持ちが落ち込んだときなどに見返して、私の励みになっています。誰かの人生にそっと寄り添える、この仕事の意義を改めて感じさせてくれた、忘れられない出来事です。
症状の中に隠れた疾患の可能性も。気になることは気軽にご相談を
――月経に関するご相談やお悩みはどんなものが多いのでしょうか
藤吉先生:月経中の腹痛や胸の張りなど身体的な症状で受診されるケースはもちろんありますが、いわゆるPMS(月経前症候群)の中でも、イライラや気分の落ち込みといった精神的なつらさをきっかけに来院されるケースも多い印象です。
患者さんの年齢層も10代から40〜50代までと幅広く、中には、「これはPMSなのか更年期なのか分からない」といった不安を抱えて来られる方もいらっしゃいます。PMSや更年期といった概念自体が、ここ最近になってSNSなどを通じて知られるようになってきた背景もあり、実はずっと困っていたけれど受診に至らなかったという方が、40代になって初めて相談に来られるケースもありますね。
恒川先生:PMSのご相談は、比較的若い世代の方が多い傾向があります。藤吉先生もおっしゃっていたように、PMSも更年期も、ホルモンの変化に身体がうまく順応できないことで、心身にさまざまな不調が起きます。
イライラや頭痛、不眠、腹痛など症状は非常に多岐にわたります。それが本当にホルモンの影響なのか、あるいは別の病気が関係しているのかを見極めるのは簡単ではありません。そのため、初期の段階では対症療法(現れている症状を和らげる治療)を行いながら、必要に応じて検査を行っていきます。
例えば、強い疲労感の原因が貧血だったり、若い方の場合は甲状腺の異常が隠れていることもあります。更年期の症状についても、「私は更年期だと思います」と自己診断されて来院される方も多いのですが、まずは他の病気ではないことをしっかり確認することが大切です。そのあたりは慎重に診ていくようにしています。
――受診の目安や特に気をつけたい症状などはありますか
藤吉先生:そうですね。年齢に関わらず、特に気をつけていただきたいのは「不正出血」です。月経とは別に出血がある場合、それが排卵時など問題のないケースもありますが、子宮頸がんや子宮体がんなど、重大な病気が隠れている可能性もあります。ポリープのような比較的軽い異常のこともありますが、いずれにしても一度は受診して確認していただきたいと思います。
また、PMSだと思って我慢している方の中には、実はPMDD(重度の月経前不快気分障害)という、より深刻な状態の方もいらっしゃいます。
中には「自殺したくなるほどつらい」と感じてしまうほどのケースもあり、そうした症状がある方は受診が必要です。少しでもつらさがある方は、「大丈夫」と思い込まずに婦人科を受診してほしいです。

恒川先生:私も基本的には同じ考えです。どんな症状であっても、「不安を感じる」「日常生活に支障が出ている」といったときは、まずは一度受診していただきたいと思います。診察を通じて、それが婦人科的な原因かどうか、あるいは他の病気が関係していないか、私たちが一緒に探っていきます。
「PMSだから」「更年期だから」と自己判断して市販薬で対応されている方も多くいらっしゃいますが、そうした方にも、一度ご相談いただけたらと思います。
特に、若い方では受験や就職、更年期世代では育児や介護など、生活のなかにさまざまなストレスが重なっていることも多くあります。体だけでなく心の状態を含めてお話を伺いながら、丁寧に診断していきたいと思っています。少しでも気になる症状があれば、どうか遠慮なく受診してください。
――読者へのメッセージをお願いします
藤吉先生:婦人科は、女性にとってとても大切な診療科です。当院では、月経の悩み、子宮や卵巣の病気、更年期症状、乳腺や内科的疾患も含めて、幅広くご相談いただけます。治療は漢方やサプリメントもご提案しており、ご自身に合った方法を一緒に探すことができます。
最近では、性交痛のようなデリケートなお悩みや、「性感染症かもしれない」「よく分からないけど不安がある」といったご相談で来られる方も増えています。少しでも気になることがあれば、遠慮なく受診してくださいね。
また、10代の方の受診も増えています。ご相談内容としては、月経痛や月経過多、PMS、月経不順が多く見られます。
10代の方の婦人科診察は、内診をおこなわずに進めることができます。お腹の上からエコーで診ることもできますし、多くの場合はお話を伺うだけで治療を開始できます。どうぞ気軽にご相談ください。

恒川先生:婦人科は「内診があるから行きづらい」と感じている方も多いかもしれません。でも、何か困っていることがあれば、どうか気負わずに受診していただければと思います。気になることやちょっとした不安でも、まずは一度お話に来てください。
また、がん検診についてもお伝えしたいです。特に子宮頸がんは、40代で多く見られるがんで、20代での発症も増えています。PMSや更年期などの症状で婦人科にかかる世代の方々には、特に検診も含めて定期的な受診を習慣にしていただきたいと願っています。
私たちは同じ女性として、生理のつらさや不快感、ホルモンの波による不調を自身でも経験しています。患者さんのお話にも、自分のことのように共感しながら向き合うことができると思っています。そうした点も、気軽に相談してもらえる理由のひとつになればうれしいですね。
忙しい時間の中でも小さなひとときを楽しんでリフレッシュ
――先生方のリフレッシュ方法を教えてください
藤吉先生: 私は料理をするのが好きで、特に食材を切っているときの「無心になれる時間」がとても心地よく感じます。家族や友人と一緒に食事を囲んで、楽しく過ごす時間も大切なひとときです。料理を通じてストレスの発散や気分転換ができているように思います。
恒川先生:正直なところ、今はこれ!といったリフレッシュ方法というのはあまりないかもしれません。というのも、私も多くの方と同じように、仕事をしながら、親の介護と子育てに追われ、今はどうしても自分の時間を持つことが難しい状況です。
本を読んだり、どこかへ出かけたりしたいと思うことはあるのですが、なかなか実際の行動に移せずにいます。それでも、そうした場所に「行きたいな」と思い描くだけでも、ちょっとした気分転換になっているのかもしれません。
あとは、たまに友人とお酒を飲みに行っておしゃべりする時間が、リラックスできるひとときになっています。忙しい毎日の中でも、そうした小さな時間が心の支えになっているように思います。
(取材:2025年6月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。