ピルを適切に使用して、女性の健康・生活の質を守りたい。女性の人生に長く寄り添うかかりつけ医をめざして【医師 井野 奈央】

生理・PMS
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生理のつらさは我慢しなくていい気軽に婦人科へ相談を

井野 奈央

江戸川橋レディースクリニック 院長

産婦人科専門医、生殖医療専門医

聖マリアンナ医科大学卒業。これまでに国立病院機構東京医療センター慶應義塾大学産婦人科学教室国立成育医療研究センター不妊診療科、杉山産婦人科生殖医療科などに勤務。
2022年「江戸川橋レディースクリニック」を開業。不妊治療だけでなく、更年期や月経の異常など、女性に特有の諸症状まで幅広く治療にあたる。

同じ女性として、女性が気軽に相談できる場所を目指して

――先生が医師を目指したきっかけや、産婦人科を選ばれた経緯についてお聞かせください

もともと家族や親戚に医療関係者はいませんでしたが、高校生の頃に母から「女性も資格を持つべき」と言われたことが医師を志すきっかけになりました。資格を持つことで女性が生きやすくなるという言葉に納得し、「それならば人の役に立てる医師になりたい」と考えるようになりました。

医学部に進学して、初期研修でさまざまな科を経験する中で、女性が女性であることを活かせる分野として産婦人科に魅力を感じました。

私は「同じ女性として患者さまの不安に寄り添える医師でありたい」と考えています。実際、当院に女性医師を求めて来院される方が多く、そのようなニーズに応えられることが、自分が産婦人科を選んだ大きな理由のひとつです。

2022年に「江戸川橋レディースクリニック」を開業
https://elc-tokyo.com/

――勤務医としてご経験を積まれた後、クリニックを開業しようと決意されたきっかけは何だったのでしょうか

正直なところ、最初は開業するつもりはまったくなく、「勤務医としてずっとやっていくのかな」と思っていました。一緒に働いていた先輩の女性医師が次々と開業される姿を見て、「開業という道もあるのだな」と徐々に意識するようになりました。

そのうちに、結婚や出産といった自分自身のライフステージの変化を経験する中で、年齢を重ねたときにどのような働き方が一番しっくりくるのかを考えるようになりました。

地域の方々と身近に関わりながら、小さなことでも気軽に相談していただけるクリニックであれば、自分も無理なく長く続けていけるのではないか。そして「自分にできることを一つひとつ、コツコツと丁寧に積み重ねていきたい」という思いが、開業の原点になっています。

江戸川橋レディースクリニック ロゴマーク
江戸川橋レディースクリニック エントランス

――クリニックのロゴマークが特徴的ですよね

このロゴは、夫の弟にお願いしてつくってもらったものです。「江戸川橋レディースクリニック(Edogawabashi Ladies Clinic)」の頭文字の「E」と「L」と「C」を組み合わせたロゴマークとなっています。

クリニックは、自宅のすぐ近くに開院しました。長く住んでいる文京区という馴染みある土地で、ママ友さんなど身近な方も来院してくださることがありますし、地域に根差して診療ができていることをうれしく思っています。

また、大学生やファミリー層、ビジネスパーソンなど幅広い年代の方が行き交う環境なので、さまざまなお悩みに対応できる点も、この場所で開業してよかったと感じている理由のひとつです。

患者さんの時間を大切にしたい。スピーディーかつ、一人ひとりの希望に寄り添う診療を

――診療時に心がけていらっしゃることは何でしょうか。ホームページでは「患者さんの時間を大切にしたい」という思いを拝見しました

そうですね、まず、できる限りお待たせしないことを大切にしています。診察まではスピーディに、診察時は治療への丁寧な説明やご相談のための時間を十分に確保できるようにしています。

実際、院内で30分以上過ごす方はあまりいらっしゃらないと思います。予約制にするからには「待たせてはいけない」という意識が強くありますし、スタッフも協力してスムーズにご案内できるよう努めています。

初診の方には、まず「どんなことを望んで受診されたのか」を伺うようにしています。たとえば月経痛という症状でも、すぐ痛みを取りたい方もいれば、将来の妊娠を見据えて相談したい方もいるなど、患者さんの希望はさまざまです。その思いをくみ取り、できる限り寄り添えるよう心がけています。

また、問診票に来院理由が書かれていた場合でも、あらためて「今日はどんなことで来られましたか」とお伺いし、お話にしっかりと耳を傾けます。

そのうえで、必要に応じて質問をしぼりながら整理していく。このプロセスを大切にすることで、患者さんにとって納得感のある診療につながるのではないかと考えています。

クリニック 受付
クリニック 待合室

将来の健康や安心のために、女性の体調管理のためのピル処方

――月経に関するお悩みでは、どのようなご相談が多いでしょうか

最近は、患者さん自身が事前に調べて「ピルを使用したい」と明確に目的を持って受診される方が増えてきたと感じます。

月経痛やPMS(月経前症候群)など、月経にまつわる不調を改善したいという方のほかに、「卵子の消耗を防ぎたい(排卵を抑えたい)」といった将来を意識した理由で相談される方もいらっしゃいます。特に若い世代の方で、自分にとって必要なことをはっきりリクエストするケースが増えている印象です。

――どんな方がピルを使用すると良いとお考えでしょうか

月経痛やPMSで困っている方にはもちろんお勧めです。また、正直なところ、今はまだ妊娠を希望していないのであれば、多くの方にとってメリットのある選択肢だと考えています。毎日飲む手間や費用といった負担はありますが、それを上回る利点があるのがピルです。

たとえば「子宮内膜症」。晩婚化や出産回数の減少により増えている病気ですが、排卵を繰り返すことでリスクが高まることがわかっています。実際に不妊治療の現場では、重度の内膜症で卵管が詰まり手術が必要になるケースもあります。「もっと早くピルを使っていれば、ここまで進まなかったのでは」と感じることもありました。エコーや内診で子宮内膜症が疑われる場合は、治療の意味でも積極的にご提案することがあります。

血栓症などの副作用のリスクはゼロではありませんし、「痛みがあっても自分は大丈夫」と感じる方や、ピルには抵抗があるという方には、こちらから一方的に勧めることはありません。

「飲まなければならない薬」ではなく、「将来の健康や安心のために検討できる選択肢」として、前向きに考えていただければと思います。

――ピルを処方してもらうにあたって、クリニックを受診することのメリットを教えてください

最近はオンラインでピルを処方してもらうこともできますが、自費診療になることも多く、保険が使えるのに少しもったいないなと感じます。

そして何より、婦人科は内診をすることで分かることが本当にたくさんあります。毎回でなくても、定期的に診察を受けることは、ご自身の体をきちんと把握し安心につながるのではないかと思います。

――生理やPMSなど、月経にまつわることで悩んでいる読者に向けてメッセージをお願いします。

月経のつらさは我慢する必要はありません。仕事や学校で忙しい中、生理に振り回されるのは本当にもったいないことです。困ったときは、ぜひ気軽に婦人科を訪れてみてください。

婦人科はピルの処方だけでなく、妊娠・出産、さらには更年期まで、女性の一生と関わっていく診療科です。だからこそ、「ちょっと相談してみようかな」と思える身近な入り口として、かかりつけのように頼っていただけたら嬉しいです。

どんなことでも相談できるかかりつけのように頼っていただけたら嬉しいです

愛犬と過ごす時間がリフレッシュに

――先生ご自身のリフレッシュ方法があればぜひ教えてください

去年、トイプードルを飼い始めました。娘におねだりされて、最初は少し「しょうがないな」という気持ちで飼い始めたのですが、今や本当に可愛くて、私が一番散歩に連れて行っています。

仕事で疲れた時も、毎日の散歩や犬と過ごす時間で気持ちがリセットでき、とてもリフレッシュになっています。

(2025年6月)


本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。

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