「生理の悩みは我慢しないで」漢方の力で、日々の生活を前向きに変えていく【薬剤師 川﨑 千尋】
目次
西洋医学を経て再び漢方の道へ
──先生が漢方や中医学に興味を持たれたきっかけを教えていただけますか
親しくしていた幼馴染のお父さまが漢方薬局を経営していて、家族ぐるみでお世話になっていました。漢方が身近にある環境で、小さい頃から「病気になったら漢方薬という選択肢もある」という意識が根付いていて、体調を崩した時には煎じ薬もよく服用していましたね。
高校卒業後は、薬剤師を目指して北里大学の薬学部に進学しました。西洋医学をベースとした現代医学を学びながらも、漢方への興味関心も持ち続け、所属する研究室では生薬の研究などに取り組んでいました。
大学卒業後はそのまま漢方の道に進むつもりでしたが、恩師から「日本の医療のベースは西洋医学だから、まずは実務を通じて知識をしっかり身につけた方がいい」という助言を受け、総合病院に勤務しました。
──病院でのご経験を経て、誠心堂薬局に入社されたのですね
病院での仕事は、西洋医学に基づく治療や医師との連携など、とてもやりがいを感じていました。それでもやはり、漢方でもっと根本的な部分から様々なケアができるのではないかという思いを持ち続けていました。
漢方に携わる仕事への夢を諦めきれず、社会人3年目になる時に誠心堂薬局に入社しました。入社後は津田沼店で研鑽を積み、2025年4月から恵比寿店で店長を務めさせていただいています。

生理不順やPMSの鍵を握る「血(けつ)」の状態を見極める
──恵比寿店に異動されて、ご相談に来られる方の印象に違いはありますか
津田沼はファミリー層が多いベッドタウンということもあり、比較的幅広い年齢層の方がいらっしゃっていた印象です。時間の流れもゆっくりで穏やかな雰囲気でした。一方で恵比寿は、オフィスや商業施設も多く、お忙しくされている方がお仕事の合間にご相談にいらっしゃるなど、現役世代の方が多い印象ですね。
──月経に関して、店頭ではどのようなご相談が多いのでしょうか
月経痛や月経不順、月経不順の原因となるPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と診断された方、それからPMS(月経前症候群)のご相談は特に多いです。
店頭のポスター掲示を見て、「生理のトラブルも漢方で良くなるの?」と気づいて、ふらっとご来店される方も多いですよ。
──漢方ではどのようなアプローチでケアをしていくのですか
中医学では、月経には「血(けつ)」が深く関わっていると考えます。月経トラブルの原因は、大きく分けると「血が不足している」か「血の巡りが滞っている」かのいずれかであることが多いです。
「血が不足」する原因は、胃腸が弱くて栄養をうまく吸収できていないことや、過労による消耗などです。一方で「巡りの滞り」は、ストレスや冷えなどが主な原因です。
たとえば「出血量が多い」という症状一つとっても、巡りが悪くて漏れ出ているのか、それとも留めるエネルギー(気)が不足しているのかで漢方薬は全く異なります。同じ症状でも、その方の体質を丁寧に見極めて最適な漢方薬を選んでいきます。

画像引用:誠心堂薬局
個性に寄り添うカウンセリングと、本場・上海で再確認した中医学の底力
── 症状だけではなくその方の体質や生活全般をみていくとおっしゃっていました。相談を受ける際、特に意識されていることはありますか
「何がきっかけでそうなったのか」という背景を探ることです。転職や進学などの環境の変化や、ご本人も気づかないような原因が隠れていることもあります。信頼関係を築きながら、しっかりとお話をお聞きするように心がけています。
その際、初診時に「エゴグラム」という、性格傾向や行動パターンを客観的に把握できる手法を活用することもあります。その方の性質を事前にイメージしたうえでご相談に入ることで、より寄り添ったコミュニケーションが可能になります。
たとえば、責任感が強くて「我慢するのが当たり前」になっている方には、いきなり踏み込みすぎないよう注意しながら、少しずつお話を掘り下げていきます。論理的な方には、数値を提示したり治療の見通しを順序立ててお伝えしたりするなど、納得感のある説明を心がけています。
なかなかご自身のお話をされるのが苦手とお見受けする方には、まず私自身の話をオープンにすることもありますね。その方の考え方や感覚に寄り添うことで、よりスムーズにご相談が進むと考えています。

また、「漢方薬だけにこだわらない」というスタンスも大切にしています。血圧が非常に高いのに受診されていない方や、婦人科系の疾患が疑われる不安な症状がある方には、「まずは病院で検査を受けてください」とはっきりお伝えしています。
薬剤師として、西洋・東洋の枠にとらわれず、その方の健康を総合的にサポートできる存在でありたいと考えています。
── 先生ご自身が、「ここが中医学の魅力だな」と感じておられるところはありますか
私自身、過去にひどい頭痛に悩まされていた時期がありました。当時は自分でいろいろな漢方も試してみたのですが、なかなか改善しませんでした。
ところが、ベテランの中医学アドバイザー(相談員)に相談し、正しい見立てに基づいた漢方薬を服用したところ、それまでの不調が改善され、自分で行っていた体質の判断が間違っていたことに気づかされました。この体験は、今の私の大きな原動力になっています。
また、先日、上海の大学病院での研修に参加し、臨床の現場で中医学が活用されている様子を目の当たりにすることで、中医学の魅力を再認識することができました。
中国では漢方が人々の生活に深く根付いており、西洋医学と同じような認識で当たり前に治療に取り入れられていました。そのすごみを肌で感じたことで、改めて「この世界に入って本当に良かった」と確信しましたね。

「月の半分」を我慢で終わらせない。生活の質を変える最初の一歩
──最後に、生理やPMSで悩んでいる方へメッセージをお願いします
生理の悩みはなかなか人と比べることがないため、「自分だけがおかしいのかな」と一人で不安を抱えてしまいがちです。また、「病院に行くほどではないかも…」と我慢してしまう方も多いのですが、生理前後の不調を合わせると、実は月の半分、あるいは月のほとんどが生理に左右されていることになります。
その不調を整えることができれば、お仕事や日々の生活にさらに前向きに取り組めるようになりますし、生活の質(QOL)自体も大きく変わってきます。些細なことと思わずに、まずは様々な専門家に相談してみてください。中医学の視点からも、ご自身では気づいていない原因へのアドバイスができますし、漢方や鍼灸を用いてサポートできることもたくさんあります。
「こんなことで相談してもいいのかな」「何から話せばいいのだろう」と不安に思われるかもしれませんが、どうぞ気負わずにお話しください。私たちは、皆さんが「心の荷物」を下ろせるような空間でありたいと願っています。ぜひ、気軽に一歩踏み出していただけたら嬉しいです。
緑の中に身を置くこと、アウトプットすることでリフレッシュ
──先生ご自身のリフレッシュ方法を教えてください
旅行が好きなので、リセットしたい時は日帰りでもパッと出かけます。特によく行くのは、鎌倉や軽井沢ですね。以前読んだ本に「ストレス発散には緑を見ること、その中に身を置くこと」という一節があり、実際に体験してその通りだなと感じて以来、意識的に緑に触れる時間を作るようにしています。
もう一つ大切にしているのは、「出す(アウトプット)」ことです。中医学でも「気(エネルギー)」を溜め込まずに発散させることを重視します。友人や同僚に思いを話すだけで考えが整理されることもありますし、溜め込まずに外へ出すことは、心身の健康を保つためのとても有効なリフレッシュ方法だと実感しています。
(取材:2025年12月)
※ 本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。



