ライフステージで体調が変化する、すべての世代の女性たちを医学的にサポート【医師 叶谷 愛弓】

女性たちの体調や人生の“なみ”と等身大で向き合うために
―叶谷先生のご経歴と産婦人科医を目指すようになったきっかけを教えてください
私は、ごく普通のサラリーマン家庭で育ったため、幼少期から医師を目指していた訳ではありません。しかしながら通っていた学校が進学校で、理系の女子は医学部志望の人が多かったことに影響され、中学生の頃から何となく医師を目指そうと考えるようになりました。
一番大きなきっかけは、医療ドラマを見て、漠然と「人のためになるような仕事をしたい」と憧れを持ったことです。
産婦人科医を志したのは、研修医時代に出会った先輩の女医さんたちが、すごく楽しそうにのびのびと働いている姿を目の当たりにしたことが契機になりました。「こういう先生になりたい」と思わせてくれるロールモデルが身近にいたことが決め手です。
実際、産婦人科医として患者さんと向き合うようになると、同じ女性として等身大の悩みと接する機会が多いことに気が付きました。自分と同じような悩みだったり、自分が将来持つであろう悩みを抱えておられる方が多いんですね。
患者さんの悩みを自分事として捉え、親身になって寄り添いながら不安や悩みを解決するうちに、大きなやりがいを感じるようになりました。
女性たちの人生に関わる産婦人科医という仕事は、私にとって天職だと思っています。

ー2024年にクリニックを開業したきっかけをお聞かせください
私はこれまで、こども病院や総合周産期センター、大学病院などでハイリスクな妊娠・分娩管理や不妊治療、がんの治療などを担当してきました。
キャリアを重ねるごとにプライベートの場でも、家族や友人の困り事に対して専門家としてのアドバイスを求められる機会が増え、「もっと気軽に日々の悩みを相談できる場所があればいいのに」と考えるようになったのです。
身近な人や患者さんの悩みに耳を傾ける中で切実に感じたのは、「頑張り続ける女性たちは、本当に大変だ」ということです。
女性たちは、女性特有の悩みを抱えつつ、妊娠や出産、育児と家事の両立など、いくつもの役割を担いながら生きています。忙しい日々の中で自分の体調や心のケアをおろそかにしているうちに、辛い状況に追い込まれてしまう方もいるのではないでしょうか。
もちろん、病気を治すための病院やクリニックは世の中にたくさんあります。しかしながら、日々のちょっとした困りごとを気軽に相談できる場は少ないように思えるのです。
専門家の知識に頼ったり、時には医学的なサポートを受けることで「楽になる」こともあるということを知っていただくために、「レディースクリニックなみなみ」の開院を決意しました。
医療機関として専門の治療を行いつつ、ちょっとした相談でも足を運んでもらえるような場所になればと考えています。

ークリニック名にある“なみなみ”という表現が特徴的です。この「なみ」に込めた想いをお聞かせください
女性の心と体には、年齢やライフサイクルを通してさまざまな「なみ」があります。それは、1ヶ月、1年という時間単位の中でも変化しますし、月経前後や更年期など、女性特有の要因によっても起こります。
その「なみ」は、抗ったり、ただ身を任せるだけではなく、理解して受け入れるものだと感じています。誰にでもある「なみ」を、少し寛容な気持ちで受け入れて、すべての世代の女性がゆったりとした日々を過ごしてほしいとの想いをクリニックの名称に込めました。
体調や心の「なみ」を医学的な知見からサポートすることで安心できたり、「昨日よりもちょっと良かったらいいよね」というような発想で捉えられたら、生活の質は向上できると思っています。
言葉の奥に潜む患者さんの悩みと誠実に向き合う
ー患者さんと向き合う時、どのようなことを心がけていますか
私は患者さんの悩みを伺う時、なるべくその患者さんが困っている背景を読み取るように心がけています。
例えば、不正出血を心配して受診される方の中には、単純に不正出血について悩んでいるのか、その裏に隠れた病気があるのかを心配している患者さんによって、考えていることが異なるからです。
不正出血はストレスや体重変化の影響などによるホルモンバランスの乱れによって起こる場合もあるため、診察では「様子を見ましょう」と言われることも多々あります。しかし、患者さんはその裏に「何か病気があるかもしれない」と不安を抱えているからこそ、勇気を振り絞って婦人科を受診されるんですね。
中には、「友人が癌にかかって大変だったのを間近で見て自分も心配になった」とか、大きな病院を受診するには気が引けるけれど、一度相談に乗ってもらい「大丈夫」だということを確認したい人もおられます。
私は、患者さんの言葉に誠実に耳を傾けながら見えない不安を汲み取り、その悩みを解決してあげることが、大切だと思っています。

ークリニックのホームページを拝見して、叶谷先生監修のコラムがとても充実していると感じました。どのような思いで取り組まれているのでしょうか
妊娠・出産前後のトラブル、月経や更年期など女性特有の健康トラブルや治療法の紹介など様々な情報をコラムにして発信しています。
このコラムを発信しているのは、「当クリニックでは、こんな疾患の相談もできますよ」という紹介の意味もあるのですが、「女性特有の悩みに関する正しい知識を知ってほしい」という思いを込めています。
ありがたいことに、当院を受診される患者さんは、コラムをお読みくださったうえで、相談に来られる方が多いんですね。
「自分と似たような悩みでも、気軽に専門医に相談してもいいんだ」と知ることで婦人科を受診するきっかけになり、自分自身を守ることにもつなげてほしいと願っています。
「妊娠したい」という漠然とした思いでも気軽に相談を
ー患者さんと接する中で、印象的なエピソードはありますか。
婦人科を受診される方は、いろいろな悩みを抱えていらっしゃいます。その中でも特に印象的なのは、「なかなか妊娠しない」と悩んでいた患者さんが不妊治療を受けて妊娠された時、表情が変化していく様子を見るのが嬉しいですね。
不妊治療を始めた当初は暗い表情だった方が、妊娠して赤ちゃんが大きくなるにつれて笑顔を見せてくれるようになります。
当院には分娩施設がないので、出産時は別の病院をご紹介しているのですが、産後の相談に戻って来てくださる方がいることも、励みになります。
出産は女性の体に大きなダメージを与えるため、尿漏れや傷の痛み、便秘など、さまざまな産後の悩みが生じます。「この病院なら、こうした悩みも気軽に相談できる」と信頼してくださり、不妊治療から妊娠経過、産後まで、その方の人生にずっと寄り添えることに、私も幸せを感じます。
ーこれから、妊娠・出産を考えている方に、メッセージをお願いします。
これから妊娠・出産を考え相談にいらっしゃる方の中には、「妊娠したいけれど、まずは何をしたら良いのか分からない」とか「妊娠したいので、とりあえず来ました」という方も多いんですね。
「婦人科を受診する前に、自分で調べておくべきだ」という考え方もありますが、私は漠然とした思いで相談に来られることも大切だと思っています。
「妊娠したいな」「別に病気はないはずなのに、どうして妊娠しないんだろう」、始めはそんなきっかけでも、専門医として相談に乗れることはたくさんあります。相談しているうちに、妊娠・出産に対する準備ができればいいと思うんですよね。
“困った時の駆け込み寺”じゃないですけど、「ちょっとだけ先生に聞いてみようかな」と気軽に相談できるような“女性たちの新しい居場所”を作っていきたいと考えています。

隙間時間を使って、気軽にリフレッシュ
ー叶谷先生のリフレッシュ法を教えてください。
時間があればゆっくり料理をしたり、好きなナチュラルワインを飲みながらおいしいものを食べたり、映画を見たりしたいのですが、私自身も忙しく、リフレッシュのためにまとまった時間をとれないのが現状です。
こうした中でも、ちょっとした時間を見つけて料理をしたり、YouTubeやネット配信のドラマを30分だけ見るとか、隙間時間を使って気分転換しています。
特にYouTubeは、電車通勤の中でも見られるので、リフレッシュにピッタリです。好きなジャンルはビジネス系動画で、違う分野の仕事をしている人に新しいヒントをもらったり、「この人も頑張っているから自分も頑張ろう」と前向きな気持ちになれるところが気に入っています。
(取材:2025年2月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。