「泣き止まない」「寝てくれない」子育ての困ったをテクノロジーで解消【ファーストアセント 服部 伴之】

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服部 伴之

株式会社ファーストアセント 代表取締役CEO

「テクノロジーで子育てを変える」をミッションに掲げるベビーテックベンチャー、株式会社ファーストアセントの代表取締役CEO。 1998年東京大学大学院工学系研究科修了。株式会社東芝で研究者として従事した後、IT業界へ転身。ベンチャー企業CTO、技術責任者などを経て2012年に株式会社ファーストアセントを創業。

パパっと育児:https://papaikuji.info/
ainenne(あいねんね):https://ainenne.com/

育児を取り巻く玉石混交の情報に感じた憤り

ーファーストアセントの代表としてご活躍の服部さんにお話を伺います。これまでのご経歴を教えてください

もともとものづくりが好きで、大学は工学部でした。大学院を出て、その後は総合電気メーカーで研究者として働き始め、ものづくりのベースとなる研究を中心に行っていました。

大企業で研究から実際のプロダクト(製品)になるまでって、かなり時間がかかるんですよね。研究する側からすると研究が終わった段階で、”もうこれでだいたいできてるじゃん、あとは安全性とか確認をするだけだから早く商品にしてよ”と思いながら製品化を何年も待つ状況に如実に直面していました。

その当時、インターネットが徐々に普及している時代で、ネットのサービスは、開始した後でもどんどんアップデートやブラッシュアップをしていけるのでこれならもっと多くのサービスを届けられると魅力的に感じました。何かものをつくる時に、今で言うアジャイルなサービス開発の方が自分の生き方に合っているなと思い、インターネット業界に入り込んでいきました。

ー起業されたきっかけはなんだったのでしょうか

しばらくはベンチャー企業のCTOなどをやっていたんですけれども、自分自身に子どもが生まれて、子育ての問題に直面したことがきっかけです。

インターネット上の情報に、妻がすごく振り回されていて、僕からするとすごい理不尽なことが起こっていると感じていました。

自分自身が実際に経験したことであっても、それが正しいかも分からない情報ってたくさんありますよね。ブログやSNSなどでは、その経験を良かれと思って他の人の問題解決のために一生懸命に発信する人がいること身をもって感じました。また、企業が利益のためだけに発信する偏った情報に非常に憤りを感じていました。

不誠実な情報を流している企業が儲けていて、実際に信じて使ってる人がものすごく悩んでるってどう考えてもおかしいじゃないですか。

エビデンスのある正しい情報を届けるにはどうしたらよいのか。インターネットの知識もあって研究もできる人って誰なのかを考えた時に、それは自分なのではないかと思い、起業を決めました。情報をなるべくフラットに、どう届けるのか、どう事実を認識してもらうのかという課題に向き合いながら、12年間この取り組みを続けています。

育児記録の”見える化”と”共有”へのこだわり

ー服部さんが開発されたアプリ「パパっと育児」について教えてください

このアプリでは、赤ちゃんの日々の生活データを手軽に記録することができます。そして、その育児情報を家族と共有することも可能です。また、赤ちゃんの泣き声から感情を分析する泣き声診断機能も搭載しています。

国立成育医療研究センターと共同研究をしていて、ノウハウに基づいた育児記録の分析機能やアドバイス機能を搭載しています。

パパっと育児:https://papaikuji.info/

ーこのパパっと育児で解決できた課題や問題は、ズバリどの点になりますか?

それは育児記録の「見える化」ができた点ですね。

これまでの育児記録はお母さんが手書きで手帳に書いていました。それがアプリ上でグラフや数値として”見える”ことで、変化に気づいたり傾向を分析できたりします。

あとは夫婦間での情報共有ができる点です。育児ってどうしてもお母さん主体になることが多いのですが、成長記録の共有や、お母さんの外出中にお父さんが子育てしているのをリアルタイムで確認できることで安心して任せることができます。

赤ちゃんって数週間でミルクの量が変わりますよね。日々のデータとして記録されていると、引き継ぐ際にもアプリを見ながら共通認識できて、お母さんが1から10まで説明しなくてもよくなりますよね。

ー”見える化”と”共有”という機能について、着想のきっかけを教えてください

一人目の子育ては、もう14年前になるんですが、最初は育児を妻に任せきりで、僕自身があまり育児に関わっていなかったんです。そういったことから、自分の経験から着想を得ている部分が大いにあります。

特に育児記録の共有という部分にはこだわりがあって、開発初期から見える化育児記録の共有は2大コンセプトに掲げていました。ただし、当時のお母さんたちからは共有機能はいらない!って拒絶されたんですよね。

ーえっ!そうなんですか!どうしてでしょうか?

普段育児をしていないお父さんが、育児記録を見ることで口出ししてくることが容易に想像できたからでしょうね(笑)平均より体重軽いけどちゃんとミルクあげてる?とか、赤ちゃんの睡眠時間が足りてないんじゃない?とか。お母さんからすれば余計なお世話ですよね。

今だと少し違和感がありますが、当時ヒアリングをしたお母さん達にとっては、お父さんは育児を主体的に行わないというのがスタンダードな考えだったんです。

ーなるほど(笑)でもこの見える化や共有という部分で、男性が育児に興味を持つきっかけにもつながっているのかなと思いました

結果的にご夫婦で育児に取り組めるツールとして利用されているのはうれしいですね。

アプリとしては見える化と共有機能を提供していますが、とにかく育児に関するデータを集める必要があると感じていました。エビデンスのない情報に惑わされる妻を直近で見てきた経験から、正しくてフラットな情報を届けるには、まずは「データを集める」しかないと。

病院には子どもの病気に関するデータはありますが、健康的な普通の子どものデータはありません。普通の子どものデータが世の中にはあまりないんだなということがわかり、育児記録をデータとして扱うことを思いつきました。

食事の時間や量、睡眠時間、排便の時間など、それまではお母さんが手で書いていた日々の育児の記録をデータとして見える化したいと考えたのが着想のきっかけです。アプリにすれば、データも集まりますし、データから分析することで正しい情報を届けられますよね。

よく寝る子は本当によく育つのか?みたいなこともデータを元に分析すれば、エビデンスに基づく正しい情報として届けることができます。

育児記録を登録、共有
泣き声診断機能

ー開発時に苦労された点はありますか

いっぱいあります。特にユーザーの声やフィードバックは大事にしたいと思ってはいても、万人に使いやすいものをつくることは難しいです。

入力方法や記録のタイミングは人それぞれですし、それぞれのニーズを全て取り込んで高機能に実装すると、使いにくい、見にくい、わかりにくいという声が出てくるので、誰にとって使いやすいかという部分は苦労するところですよね。

ーアプリを利用された方からの反応はいかがでしょう

お母さんから”楽になった”と言ってもらうことが多いですね。

パパっと育児の機能のひとつに「泣き声の解析」があります。赤ちゃんが泣くのって、慣れないうちは、すごく混乱しますよね。日々接していると泣いていることに対しての許容度も広くなって、なんとなく泣いている理由もわかるようになってきますけど、そこまで行くのは本当に大変です。

よく聞く利用シーンとしては、お父さんが赤ちゃんを見ている時に泣いてしまうと泣いている理由がわからない。お父さん自身でいろいろ考えられること全部やったんだけど、泣き止まないから絶対これはおっぱい飲みたいんだよ!って言って、5分でお母さんのところに戻ってくるっていうパターンです。

この「泣き声解析」はAIで泣き方の傾向を分析して、泣いている理由の予測を教えてくれます。アプリ上で泣いている理由はこれかもということがわかると、お父さんもそれを信じてきちんとやってくれるようになって楽になったというのはよく聞くことですね。

子育ての課題はデータやツールで解消 

ー「ainenne(アイネンネ)」についてもお話を聞かせてください。これはどういった製品なんでしょうか

ainenneは光目覚ましで、赤ちゃんの睡眠リズム形成をサポートするスマートライトです。

もちろん光目覚ましだけではなくて、他にも様々な機能がありますが、睡眠のサイクルを整えるという点に注力した商品です。

早寝早起きの習慣づけや睡眠のサイクルを形成するには、朝強い光を浴びることがすごく重要です。人間には、生活サイクルを司る体内時計というものがあるんですが、この体内時計って実は24時間より少し長いのが一般的なんです。体内時計をリセットしないで生活をしているとだんだん生活時間帯がズレていずれは昼夜逆転してしまいます。朝の光を浴びることで、体内時計がリセットされて正しいサイクルに戻すことができるんです。

他には、寝かしつけ環境が良くなるホワイトノイズという、ザーという音を再生する機能があります。ホワイトノイズを鳴らしてると、寝つきがよくなったり、ちょっとした物音で起きにくくなります。

「スマートベッドライト ainenne(あいねんね)」(https://ainenne.com/より引用)

ー赤ちゃんの寝かしつけや睡眠というところに着目されたきっかけはなんでしょうか

育児中の方にアンケートをとると、「泣き止まない」「寝てくれない」が2大課題として挙げられます。寝てくれないは、違う表現で言うと「自分の睡眠時間が確保できない」という言い方にもなります。

そういった背景もあって、AIを活用した「泣き声解析」と、光目覚ましによる「睡眠改善ツール」を開発して解決しようと思ったのがきっかけになります。

ー今後の展開としてはどのようにお考えでしょうか

これからも子育てを中心にサービス展開していきたいと思っています。最近では、AIを活用して子育てをより良くサポートできるサービスを開発しています。

ここ数年で、男性育休の取得が当たり前になるなど、育児に対する考え方や環境が急激に変化しているなと感じています。この社会の変化にいかにきちんと対応するのか考えながら取り組むことが重要だと思っています。

より良い育児のために人やサービスに頼ってほしい

ー子育て中の読者にメッセージをお願いします

育児って自分だけでやろうと思うとすごい大変なので、人やサービスに頼ってほしいと思います。

困った時には、施設や公共のサービスもありますし、僕らのような人がさまざまなサービスを作っているので、それらを便利に使っていただいて、より良い育児をみなさんができるようになったらなと思っています。

体を動かして汗をかいてリフレッシュ

ー最後に、服部さんのリフレッシュ方法を教えてください

運動して汗かいて頭を空っぽにすることですね。

以前は長野に日帰りで行って岩山を登ったりもしていましたが、最近は普通にトレーニングジムに行って、短時間でわーっと汗をかいて帰ってきますね。

あとは子どもと一緒に科学館のような施設に行くことですかね。子どもにとってはもしかしたらあまり興味ないのに、父親に「これやってみて」とか「これすげえだろう」とか言われているだけかもしれなくて、僕が一番楽しんでいるんじゃないかと思ってます(笑)

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