「こうしなきゃ」を手放して、十分に頑張っている自分を労って。漢方の知恵でママの心と体を支えたい【岡田 美由紀】
目次
挫折しかけた知識ゼロのスタートから、漢方の道で22年歩み続けるまで
――岡田さんが漢方に興味を持たれたきっかけやエピソードをお聞かせください
私が漢方の道に進んだのは、実は偶然の流れからです。幼い頃、バリバリと働く母の背中を見て育った私は、「自分もいつか母のような働く女性になりたい」という憧れを抱いていました。
結婚・出産を経て、家業を手伝いながら「人と接することが好き」という理由だけで飛び込んだのが、漢方薬局の接客助手という仕事でした。当初は知識も興味もゼロ。あまりの勉強量の多さに、3日で「無理かもしれない…」と挫折しかけたほどです。
しかし、ご相談者様の体調が良い方向へ変わっていくことに大きなやりがいを感じ、「もう少し頑張ってみよう」と思い直しました。
また、当時の店長との出会いと、娘の存在も支えとなりました。年下の店長が漢方の面白さをユニークに教えてくれたことで興味が深まり、持ち前の負けず嫌いな性格も手伝って、夢中で勉強しました。
そして登録販売者※という資格制度ができた際、受験生だった娘が「お母さんも一緒に勉強しよう」と背中を押してくれました。ファミレスで猛勉強した時間は、今でも大切な思い出です。
登録販売者の資格を取得した後、転職の機会をいただき誠心堂薬局に入社することになりました。今では誠心堂薬局に在籍して14年になり、漢方の世界に身を置いて22年が経ちました(2026年4月現在)。
※登録販売者:ドラッグストアや薬局で、風邪薬や鎮痛剤などの第2類・第3類医薬品を販売できる専門資格
暮らしと地続きにある漢方。一人ひとりの背景に耳を傾け、無理なく取り入れられる改善法を提案
――現在は登録販売者として新浦安店でご活躍ですが、岡田さんが感じる「漢方の魅力」はどんなところでしょうか
私が感じる漢方の最大の魅力は、その方の「生活」そのものに深く寄り添える点にあります。症状にフォーカスする西洋医学に対し、漢方は「なぜその症状が、その方の生活背景から生まれてきたのか」という根本的な理由に目を向けます。その人自身の暮らしと地続きにあるのが漢方なのです。
特に誠心堂薬局では、単に症状に合わせてお薬を選ぶのではなく、中医学の理論に基づき、お一人おひとりの体質や状態を「証(しょう)」として判断します。入社当初は、複雑な理論と症状をリンクさせることに必死でしたが、学びを深めるほどに、この理論があるからこそ一人ひとりに最適な答えが出せるのだと確信しました。
また、漢方は決して遠い存在ではありません。生薬の中には、普段の食事に取り入れられる食材も多くあり、薬膳のような「身近な養生」に気づくきっかけをくれるものでもあります。
ご相談者さまとお話をしながら、暮らしの中で無理なく取り入れられる方法を提案することや、一緒に改善を目指していくことが私にとっての漢方の魅力ですね。

――ご相談者さまと向き合う際に工夫していることや大切にしていることを教えてください
ご相談者さまと向き合う際、まずは話しやすい雰囲気を作ることを何より大切にしています。お座りいただいて挨拶をした瞬間の表情から、その方がどのような思いを秘めていらっしゃるかを細やかに汲み取るよう努めています。
いきなり私からお話しするのではなく、「何でもお話しくださいね」とお伝えすることからスタートするのは、まずは心を開いていただきたいからです。お持ちの物などから共通点を見つけて共感し、少しずつ緊張を解いていくことで、初めて見えてくるお悩みもあります。
私が最も重視しているのは、症状そのものだけでなく、それを抱えている方の「背景」です。なぜその症状が出たのか、そして、敷居が高く感じられがちな漢方相談において、なぜ誠心堂薬局または私たちの店舗を選んでくださったのか。そうした背景を丁寧に伺うことが、本当の意味での解決に繋がると思っています。
たとえば、睡眠の質を改善したい方に「早く寝ればいい」と伝えるのは簡単です。しかし、それができない現実には必ず理由があります。「今こういう状況だから難しいんだ」というご相談者さまの現実に寄り添い、改善方法を一緒に考えていける場所でありたいと考えています。
産後は心も体もエネルギー不足。「頑張りすぎない子育て」を漢方の知恵でサポート
――薬局にご相談にいらっしゃる方で、子育て世代の方の悩みはどのような内容が多いですか
月齢の浅い赤ちゃんを育てていらっしゃる方から、「眠れない」「自分の時間が取れない」「家族の協力が得られない」といったお悩みを良く聞きます。わけもなく不安になるなど、産後うつのような状態の方もたくさんいらっしゃいます。協力者がおらずワンオペ状態が続いて、この先やっていけるのかという不安を抱えているという方も多いですね。
実は中医学では、産後のママの体質を「三虚(さんきょ)」と呼び、心身ともに極限まで消耗した状態だと考えます。
出産時の出血による「血(けつ)の不足」、体力の消耗による「気(き)の不足」、そして大量の発汗による「潤い(津液)の不足」。この3つの大切なエネルギーがすべて空っぽの状態なのです。それにもかかわらず、待ったなしの育児や授乳、寝不足が続くわけですから、不調を感じるのはある意味で当然のことと言えます。
中国や台湾では、「産後の不調は一生の体質を左右する」と考えられていて、産後ケアに特に力を入れる風習があります。特に「産褥期(さんじょくき)」と呼ばれる6〜8週間は、産婦の心身の回復にあわせた薬膳料理が提供されたりと、中医学の知恵が産後ケアに活用されています。
産後のお母さまにとって、休息や栄養、そして心の安定を保つことは、決して自分を甘やかすことではありません。これからの長い人生を健康に過ごすための、何よりも大切な基盤づくりです。まずは母体を休めることを大前提に、漢方の知恵を借りながら、一緒に心身を整えていければと考えています。

――日本では産後すぐにワンオペで、一人でがんばり続けてしまう方が多い印象ですよね
そうですよね。一人で全てを抱え込むワンオペ育児で頑張り続けてしまう方が本当に多いと感じます。
ご相談にいらした方には、まずは頑張らなくても楽しめることを一緒に探すようにしています。たとえば、家事を完璧にこなすために睡眠を削るのではなく、「赤ちゃんの隣で10分だけでも一緒にお昼寝をして、自分を癒してあげましょう」とお伝えすることもあります。その方の価値観を大切にしながら、いくつか選択肢を提案し、どれなら心が楽になれそうかを寄り添って考えます。
今はSNSなどで情報が溢れているため、「あれもこれもできていない」と不安になる方も多いでしょう。でも、一生懸命調べていること自体が、お子さんのことを想い、子育ての質を高めようと努力されている素晴らしい証拠です。私はまず、その「一生懸命さ」に心から共感することを大切にしています。
子育てにおいて「こうしなければいけない」という決まりはありません。赤ちゃんが元気に育っているなら、それだけで子育ては大成功です。「あなたは今、十分に頑張っていますよ」と、ご自身を労っていただきたいのです。
私自身、料理が大好きで、時間をかけずに「手をかけたように見える」時短レシピが得意です。そんなオリジナルの時短レシピをお教えすることもあります。お子さんの栄養バランスを心配される方には、「大きくなって学校に行き始めれば、給食でしっかり栄養は摂れますよ。そこは給食に任せて大丈夫。」とお話ししています。
世代による考え方や情報の違いに戸惑うこともありますが、大切なのは、目の前の方の現実に共感し、一緒に解決の糸口を見つけること。共感と分析を繰り返しながら、これからもご相談者さまと共に歩んでいきたいと考えています。
目指すのは「何でも話せる親戚のおばちゃん」。ご相談者さまと共に歩むやりがい
――地域に根ざした薬局としてやりがいを感じられる時はどんな時ですか
かつて幼稚園生だったお子さまが久しぶりにお会いすると立派な大学生になっているなど、まるで親戚の一員のような感覚になることがあります。それが地域に根ざした店舗または薬店ならではの、何よりのやりがいです。
お子さまたちには「親戚のおばちゃんだと思って、何でも話してね」と声をかけています。時には、ご両親や友達には言えないような恋愛相談をこっそり打ち明けてくれるお嬢さまもいらして、そんなふうに何でも話せる場所であり続けられることを、とても嬉しく感じています。

――岡田さんご自身の子育てで大変だったことはありますか
私自身の育児を振り返ると、子どもたちは比較的おだやかで、仕事との両立も周囲に助けられながら、楽をさせてもらったなと感じる部分が多いです。ただ、そんな私にも一度だけ、娘が中学生の頃に反抗期がありました。
挨拶もしない、言うことも聞かない…。そんな娘の態度に、私もイライラしては、当時の愚痴をノートに書き綴っていました。
先日そのノートが偶然出てきたのですが、そこには「あなたが大人になって子育てをした時、きっと同じ目に遭うわよ」という恨み節のような一文が。今、まさに娘が二人の子育てに奮闘している姿を見ると、当時の私の言葉が現実になってしまったようですね。娘も仕事と育児を両立しているので時間を作ってサポートするようにしています。
そんな経験があるからこそ、今子育てに悩んでいるお母さま方の、不安な気持ちやイライラしてしまう気持ちも、痛いほどよく分かります。時には「親戚のおばちゃん」のように。またある時は「子育ての先輩」として。皆さんの喜怒哀楽に共感し、一緒に笑いながら、心身の健康を支えていきたいと願っています。
ご家族を支えるあなただからこそ、ご自身の心と体のバランスを何よりも大切に
――今子育てを頑張っている読者の方へのメッセージをお願いします
女性の人生には、出産、育児、そしてキャリアなど、心身ともに大きな変化を伴う節目がいくつも訪れます。その波の中で、時には自分を見失いそうになったり、漠然とした不安を抱えたりすることもあるでしょう。そんな時こそ、「自分はどうしたいか」という、あなた自身の心の声を一番に大切にしていただきたいと思います。
日々の生活の中で、ご家族や周りのことを優先し、「これくらいは我慢しなきゃ」と自分を後回しにしていませんか。あなたが大切に想っているご家族を支え続けるためには、あなた自身の心と体のバランスが整っていることが何よりも大切です。
もし、日々の暮らしの中で少しでも違和感や「辛いな」というサインを感じたら、決して一人で抱え込まないでください。信頼できる知人や友人に話すことでも、専門家を頼ることでもいいのです。
周りに助けを求めることは、決して弱さではありません。あなたが笑顔でいられるように、私たちはいつでもここで、あなたの声に耳を傾けています。
――岡田さんご自身のリフレッシュ方法を教えてください
私は音楽イベントに行くのがとても好きです。最近の言葉で言うといわゆる「推し活」ですね。推しのライブに行くことが大好きで、お休みが合えば必ず行くようにしています。
会場で飛んだり跳ねたり、大声で歌ったりすることでかなり発散できています。何かに夢中になれる時間があるのは、とても大切なことだと感じます。それを糧にお仕事も頑張れる、そんなサイクルでパワフルに過ごしています。
(取材:2026年4月)
※ 本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。



