女性の権利と健康を守り、子どもたちの未来のために適切な支援を【医師 星野 裕子】

子育て
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まつしま病院 院長 星野 裕子

星野 裕子

まつしま病院 院長

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
日本周産期・新生児医学会 周産期(母体・胎児)専門医

北里大学医学部卒業 北里大学病院産婦人科入局。出産後東京へ転居。都立墨東病院周産期センターで周産期専門医を取得。

東京リバーサイド病院周産期部門長を経て2019年7月よりまつしま病院勤務、2022年4月 院長就任。

関連サイト:
まつしま病院

生まれてくる命を見ることができるのは産婦人科だけ

ー先生のこれまでのご経歴を教えてください。

研修医時代のことなので記憶が曖昧ですが、ずっと外科系に興味があったように思います。ですが、私の出身大学が産婦人科に強く、部活の先輩が産婦人科に入局した影響もあり、結果として産婦人科を選択しました。

お産が好きというのも大きな理由です。新しい命の誕生に立ち会えるのは、産婦人科ならではのやりがいだと思います。

近年は総合医療の進歩により、妊娠中の合併症にも幅広く対応できるようになりましたが、私が研修医だった頃は、妊娠中の合併症であっても他科に依頼することが難しく、産婦人科医が全て診る必要がありました。女性しか見ない特殊な科ですが、全体的に診ることができるおもしろさも魅力だと感じています。

妊娠、出産や育児に不安を抱える人たちをサポートしたい

ー先生がお勤めされている「まつしま病院」について教えてください

まつしま病院は「産科」「婦人科」「小児科」「心療内科」を併設した非常に特徴的な病院です。前身となる「まつしま産婦人科小児科病院」の頃から変わらず「女性と子どもにやさしい病院づくり」を理念に医療と支援を行なっています。

妊娠期から周産期、新生児期、思春期まで一貫して診ることができる点を強みとして、DV被害者へのサポート、性暴力を受けた方への医療対応、児童虐待の防止にも力を入れています。

まつしま病院ホームページ(https://www.matsushima-wh.or.jp/

ー産婦人科だけではなく小児科や心療内科まで併設されているとは!普段の診療やスタッフ間で心がけていることや大事にしていることはありますか

患者さんに対しては、まずしっかり話を聞くというスタイルを貫いてる病院で、スタッフたちはみんなそれを非常に大事にしています。急に診察はしませんし、受診を否定することもありません。

また、チームで診る「チーム医療」という意識を持つようにしています。

同じ病院内でも、産科や婦人科から心療内科の先生に引き継ぐ場合は、必ずどういう経緯でその患者さんを診ていただきたいかを依頼文にします。小さな病院内でのやり取りですが、お互いの科を尊重することが大事だと考えています。

ーまつしま病院はいつ頃からどのような経緯で女性支援を始められたのでしょうか。

初代院長は、女性の立場に配慮した医療・女性の権利と健康を守る医療によって女性とその子どもをサポートしたいという想いで、当院の前身となる病院を開設されたと聞いています。特に性被害や性暴力を受けた女性に心を寄せ、家庭環境や精神面、経済的な問題などさまざまな理由で育児が困難な妊婦さんを多く診てきた社会的意義のある病院です。

2015年には、妊娠・出産・育児に関する不安や悩みを抱える妊婦さんに対し、「もっと私たちが関わらないと」という助産師たちの強い思いから、支援外来を立ち上げました。

支援外来では、助産師が40分ほど時間をかけて、生育歴や妊娠・出産に困難を感じている理由などを伺います。すると、幼少期に辛い経験をし、適切なケアを受けられないまま大人になり、パートナーにも恵まれないまま妊娠に至る…といった、大変な状況にある方が多いことが分かってきました。愛された経験がないため、どう育児をしたら良いか分からない、そんな背景が見えてきたのです。

「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」(※)という言葉があるように、自分の性や生き方は自分で決める権利があります。日本ではこのような教育が不十分なため、自分が大切にされていないという認識がないまま成長してしまう人もいます。

妊娠したことで私たちと出会い、「すごく大変だったでしょう。すごく生きづらかったでしょう」と声をかけると、初めて自分の状況に気付く方も多くいました。親から十分に愛情を受け、1人の人間として認められて育った経験がないと、自分を大事にする意識が低く、自分の子にもどう接したら良いか分かりません。

こうしたケースは近年増加傾向にあります。もっと早く出会えていたら、これほど困ることはなかっただろう。もっと若い時に、心に悩みを抱える少女たちに手を差し伸べることができていたら…。そんな思いから、ユース世代への支援を始めようと決意しました。

若い世代に正しい知識、気軽に立ち寄れる場所を提供 

ー先ほどお話しいただいたように、もっと若い人へのアプローチをという背景から「ユースウエルネス KuKuNa(ククナ)」開設に繋がったのですね。KuKuNaではどのような活動をされていますか。

子どもや若者が抱える悩みを受け止める場所が社会に必要だと考え、その機能を持った場所として、「ユースウエルネス KuKuNa」を2024年に開設しました。

ユースウエルネスKuKuNa:https://www.matsushima-wh.or.jp/youth_wellness/

KuKuNaの主な活動としては、「街の保健室(オープンユース)」「個別思春期相談(ワンコイン相談)」「教育活動(勉強会や性教育講演など)」の3つがあります。

KuKuNaは、病院と同じ敷地内、徒歩5分の場所にあるので、私も診療後に顔を出してお話することもあります。 

ユースウエルネス KuKuNa(ククナ)
2024年に開設したユースウエルネス KuKuNa(ククナ)

ーどのような方が利用されているのでしょうか

「個別思春期相談(ワンコイン相談)」には、不登校のお子さんと親御さんと一緒にいらっしゃるパターンが多いですね。学校に行けなくなって、心療内科のある病院へ行くべきか、それともKuKuNaのような施設で悩みを聞いてもらったほうがいいのかなど困っている親御さんが、個別のご相談にいらっしゃいます。

あとは、「街の保健室(オープンユース)」として予約不要、匿名でふらっと立ち寄れるような居場所づくりを月4回ほど実施しています。誰とも話したくなければ話さなくていい、お菓子を食べたり絵を描いたりできる遊び場みたいな場所を提供しています。

ここに来てくれるのは学校に行けてない子が多いです。「今日は何しに来たの」と聞くと、ポツポツと自分の困った状況を話してくれたりもします。

友だちやスクールカウンセラーの先生に勧められてくる子たちもいます。性行為後に生理が止まってしまった中学生が、「病院には行きづらいけど、友達がKuKuNaにいってみたらって言うから来てみた」と言って助産師たちと話しをしに来たり。必要であれば隣の病院(まつしま病院)を受診してみたらといって繋げてもらうようなそんな場所です。

誰が居るかわからない病院に行くよりは、顔を見知った看護師などがいる病院の方が行きやすいですよね。

ーKuKuNaの立ち上げで大変だったことはありますか。

公的なところに話を通すのが本当に大変でした。今も大変ですけどね。 

私たちの病院は小さな民間病院ですが、自治体や地域、学校との連携が不可欠だと考えています。より多くの方をサポートするために、公的機関(自治体)のバックアップがあればと思っていますが、なかなか実現しません。

スウェーデンではユースクリニックが250カ所もあり、国からの補助で無料です。日本もそうあるべきです。

東京都が行う相談事業などもありますが、私たちのように実際に当事者と日々向き合っている者が関わることの重要性は非常に大きいと考えています。私たちと同様の取り組みを実施できる病院があるのであれば、そこをバックアップして支援の手を広げていくべきだと思っています。

ー学校や家庭での性教育も遅れていると言われている日本で、若い世代への正しい知識や場の提供にはまだ高いハードルがあるのですね

そうですね。残念なことに「余計なことはしてくれるな」という雰囲気は未だにあります。

海外では「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に基づき、5歳頃から子どもたちが健康で安全で生産的な生活を送れるよう、包括的な性教育が行われています。

早期の包括的な性教育の重要性をもっと多くの方に認識してほしいという思いから、KuKuNaのスタッフは、幼稚園や保育園にも働きかけ、ご希望の園に性教育の出張授業を行っています。

しかし、なかなか一般的になるには至っていません。私の母校(女子校)の学園祭にブースを出展しようと打診した際も、「本校の生徒には必要ない」と断られてしまいました。これが現状なんですよね。

性教育については、個人の価値観によるところも大きく、受け入れ難いと感じる方もいることは理解できます。ただ、自分の子どもたちの未来にとってどのような影響があるのか、想像できる人がもっと増えることを願って活動を続けています。

子どもたちの未来を想像して行動する

何が一番大切で何に軸を置くのか、自分できちんと決める

ー読者の方にメッセージをお願いします。

女性の身体は、年齢とともに大きく変化していきます。妊娠や出産など、年齢によって難しくなるライフイベントもあります。まずは、その限界をきちんと知ることが大切です。そして、その中でどのように人生を歩んでいくかは、自分で決めて良いのです。

何が一番大切で、何を軸に生きていくのかを自分で決めないと、後になって取り返しのつかない後悔をしてしまうかもしれません。

だからこそ、自分の体についてよく学び、様々な情報の中から正しい情報を選び取り、自分の身体と心に向き合ってほしいと思っています。

不確かなSNSの情報などに惑わされず、何が正しい情報なのかを見極める力を持ってください。そして、信頼できる情報源を見つけ、気軽に相談できる環境を自分で探してみてください。多くの情報の中から自分に必要な情報を取捨選択するのは難しいと思いますが、私たち産婦人科医から発信する情報が、もっと多くの方に届くようになれば良いなと願っています。

ー最後に先生のリフレッシュ方法を教えてください

学生時代はバレーボールをやっていたので、今でも体を動かすことが好きですね。

最近、娘と一緒にスポーツジムに入会しました。ホットヨガで気持ちよく汗を流すのが好きなのですが、娘に連れられてボクササイズにも挑戦しています。もう若くないので激しい運動は膝などの関節が痛むのですが、、しっかり身体を動かすことでリフレッシュしています。

(取材:2025年1月)


本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。

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