自分の身体のリズムを知って、小さなサインを見逃さないで。婦人科がんの早期発見で患者さんの未来を支えたい【医師 佐藤 英貴】

生理・PMS
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必要以上にこわがらないで 早めの受診で早期発見、早期治療を

佐藤 英貴

東京警察病院 産婦人科 部長

産婦人科専門医・指導医、婦人科腫瘍専門医、がん治療認定医

東京大学医学部医学科卒業。専門は婦人科腫瘍および周産期。産婦人科医として、子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がんなどの婦人科悪性腫瘍の診療と周産期医療に従事している。現在は東京警察病院産婦人科に勤務。アマチュア天文家としても活動し、日本天文学会より複数回にわたり天文功労賞を受賞している。

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天文学者への憧れから始まった、産婦人科医への道

――医師を志したきっかけと、産婦人科を選んだ理由を教えてください

実は、私が医師を志したのは中学生の頃で、正直に言うと決して高尚な理由からではありませんでした。

当時は趣味だった天体観測に夢中で、「将来は天文学者になりたい」と考えていました。歴史上の有名な天文学者の中には、医師を本職としていた人がいたと知り、「医師として生計を立てながら、天文学でも名を残す」というその生き方に惹かれたことが、最初のきっかけでした。

産婦人科を志したのは、それからかなり後、大学卒業を控えた時期です。もともと「発生学(※)」という分野に興味があり、生殖医療に携わりたいと考えていました。

当初は男性不妊の研究を志して、泌尿器科を考えていたのですが、実際に現場を見学してみると、自分がやりたいこととは少し方向性が異なるように感じました。そこで、産婦人科という選択肢にも目を向けるようになり、この分野で生殖医療に関わっていこうと決めました。

大学の部活動の先輩に産婦人科医が何人かいて、「産婦人科はいいぞ」と声をかけていただいたこともあり、最後の一歩を後押ししてもらったように思います。

――先生はご専門が婦人科腫瘍と伺っていますが、病院内ではどのような役割を担われているのでしょうか

私は現在、がん治療を専門としながら、周産期医療や不妊治療にも携わっています。

当院の婦人科では、腫瘍専門医の資格を持っているのが現状私一人ということもあり、手術に限らず、がん治療全般に深く関わっています。放射線治療については専門の先生にお願いしていますが、そこに至るまでの治療方針の立案や調整、さらに緩和ケアも含めたトータルなサポートを、中心となって担当しています。 それぞれの患者さんにとって最適な治療が選択できるよう、全体を見渡しながら関わっていく役割を担っています。

東京警察病院 外観(https://www.keisatsubyoin.or.jp/

「病を治し、生活を支える」がん専門医として担うトータルサポート

――患者さまと向き合う際に、先生が大切にされていることや、診療のスタンスについてお聞かせください

医師として最も大切なのは、病気を治すことはもちろんですが、「患者さんのライフスタイルを守ること」だと考えています。

患者さんの立場や背景によって、治療に適したタイミングや選択すべき方法は大きく異なります。がんという病気においては早期治療が重要ですので、現在の状況で治療が必要であることは、きちんとお伝えするようにしています。

その一方で、治療と日常生活をどのように両立していくかも、非常に重要なポイントです。たとえばお仕事との兼ね合いなどについても見据えながら、「この病状であれば、これくらいの可能性で抗がん剤治療が必要になるので、今のうちから準備しておきましょう」といった形で、できるだけ早い段階から見通しを共有するよう心がけています。

治療そのものだけでなく、その先の生活も含めて支えていくことが、私の診療のスタンスです。

――産婦人科医として、新しい命の誕生に立ち会う場面と、がんという人生の大きな分岐点に立つ方と向き合う場面、その両方を担われています。先生の中で、そのバランスや向き合い方に違いはあるのでしょうか

お産は確かに新しい命の誕生という喜びの場面ではありますが、実際には、単に「幸せでハッピーなだけの場」というわけではありません。お産の現場は、5〜6%程度と決して低くない頻度で緊急事態が起こり得る場でもあります。

そういう意味では、あらかじめ診断や治療方針がある程度定まっているがん治療と比べると、お産のほうがより瞬発的な判断や対応が求められる場面が多いと感じています。不測の事態が起こったとしても、最終的に「よかった」と思っていただけるように、常に備えておく必要があります。そうした意味で、お産にはある種の“こわさ”があるというのが率直な実感です。

もちろん、がんの手術にも別の意味での緊張や怖さがありますが、お産とはまた質の異なるものです。いずれも命に関わる場面であることに変わりはなく、それぞれに対して常に緊張感を持って向き合うことが大切だと考えています。

――先生が医師として「やりがい」を感じる瞬間や、この道を選んでよかったと思うエピソードがあれば教えてください

たとえば、なかなか子宝に恵まれずに悩んでいらっしゃった方が、治療を経て妊娠され、新しい命が誕生する。その一連の過程に関わらせていただけることは、私にとって大きな喜びです。

また、当院では産婦人科と小児科の外来が隣り合わせになっているため、ワクチン接種に来たお子さんが元気に成長していく姿を、折に触れて見守ることができます。そうした姿に触れるたびに、あらためてこの仕事のやりがいを感じています。

こうした経験ができるのは、この職業ならではの特権かもしれません。私自身、日々の診療の中で、たくさんの力をいただいていると感じています。

見逃さないでほしい、身体が発する「不正出血」と「お腹の張り」のサイン

――婦人科のがんがどのような症状で見つかることが多いのか教えてください

産婦人科におけるがんには、主に「子宮頸がん」「子宮体がん」「卵巣がん」の3つがあります。このうち、子宮頸がんと子宮体がんは、いずれも不正出血をきっかけに受診される方が多いのが特徴です。

子宮頸がんの場合は、物理的な接触によって出血が起こりやすいため、比較的若い世代の方のほうが、早い段階で異変に気づいて受診される傾向があります。

一方で、性交渉の機会が少なくなる年代になると、症状に気づきにくく、発見された時にはある程度進行しているケースも見受けられます。もちろん、がん検診で見つかることが理想ですが、症状として現れる場合には、このような出血が重要なサインになります。

子宮体がんでは、生理とは関係のないタイミングで少量の出血がみられるのが特徴です。中には「1年ほど前から出血が続いていたものの、最近になって量が増えてきたため受診した」という方もいらっしゃいます。子宮頸がんのような接触による出血とは異なり、断続的に、かつ自発的に続く出血である点がポイントです。

生理以外の時期に出血が続く場合には、様子を見ようとせずに、一度医療機関を受診していただきたいですね。

――卵巣がんについてはどのような特徴があるのでしょうか。発見のきっかけや、治療の進め方について教えてください

卵巣がんは、先ほどの子宮頸がんや子宮体がんとは症状の現れ方が大きく異なります。比較的多いのは、急にお腹が膨らんできたことで異変に気づくケースです。これは、がんそのものが急速に大きくなったり、お腹の中に広がったりすることで起こります。

ただ、お腹が大きくなってきても、早い段階ですぐに受診される方はそれほど多くありません。「少し太ったのかな」と思われたり、ダイエットをしてもお腹だけなかなか引っ込まないことを不思議に感じながら様子を見ているうちに、周囲の方から妊娠を疑われて受診に至る、そうした経緯で見つかることもあります。

お腹の張りによる圧迫感や痛みを伴うこともありますが、卵巣がんには、初期段階で確実に見つけるための検診方法が確立されていないという難しさがあります。実際に、1か月前の検査では異常がなかった方が、その後短期間でお腹が大きく張ってくる、といった経過をたどることもあります。それだけ進行が速い場合もあるため、違和感を覚えた際には、できるだけ早く受診していただくことが大切です。

治療については、お腹が大きく張っている状態では、最初の手術でがんをすべて取り切ることが難しい場合もあります。一方で、卵巣がんは比較的抗がん剤治療の効果が期待しやすいという特徴があります。

そのため、まずは診断を確定するための手術を行い、その後しっかりと抗がん剤治療を進めます。そして、がんが小さくなった段階で、あらためて可能な限り取り除く手術を検討する、という流れが一般的です。もちろん、状況によっては初回の手術でできるだけ取り除くことを目指しますが、患者さんの全身状態を踏まえながら、最も効果的と考えられる順序で治療を組み立てていきます。

「命」と「将来」の両方を守るために。早期発見が繋ぐ妊孕性温存の可能性

――若年の方が罹りやすいがん種はありますか

子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルスというウイルスが原因で起こるがんです。そのため、特定の年齢に多いというよりは、若年の方でも高齢の方でも、比較的同じような頻度で発症します。ほかのがんと比べると、若い方の割合が高く見えるのが特徴で、若年であっても発症して不思議ではないがんです。

一方で、子宮体がんは、肥満のある方や更年期以降、閉経後の方に多い傾向があります。

卵巣がんについては、年齢が上がるほど発症しやすい傾向はありますが、若い方でも発症する可能性は十分にあります。10代で発症することもありますが、その場合、抗がん剤がよく効くことが多く、一般的には片側の卵巣を摘出し、抗がん剤治療を行うという流れになります。

先ほどもお話した通り、卵巣がんの場合は、急にお腹の張りを感じて気づくケースもよくありますので、「お腹が張ってきた」「いつもと違って何かおかしい」と感じた時点で、できるだけ早く医療機関を受診していただきたいですね。

――婦人科のがんと診断されると、「将来、子どもを授かることが難しくなるのでは」と大きな不安を抱える方も多いと思います。妊娠するための機能を残す「妊孕性(にんようせい)温存治療」の可能性について教えてください

婦人科のがんと聞くと、「子宮や卵巣をすべて摘出しなければならず、もう子どもを持つことはできないのでは」と思われる方もいらっしゃると思います。ただ、すべてのケースでそうなるわけではありません。

たとえば卵巣がんの場合、初期の段階でがんが片方の卵巣にとどまり、周囲に広がっていなければ、子宮ともう片方の卵巣を残すことが可能です。その後、抗がん剤治療が必要になることもありますが、それでも妊娠の可能性を保てるケースはあります。

子宮体がんについても、ごく初期で、がんが筋層まで及んでおらず、悪性度が低いといった条件を満たせば、ホルモン治療によって子宮を残す選択肢があります。子宮頸がんも同様に、初期であれば子宮の頸部のみを切除する手術を行うことで、妊娠するための機能を温存できる場合があります。

ただし、こうした治療の選択肢が成り立つのは、「初期の段階で見つかること」が前提になります。

これからお子さんを望まれる若い世代の方には、不安から受診をためらうことで、その機会を逃してしまうことがないようにしていただきたいと強く感じています。少しでも早く受診していただくことで、「命を守ること」と「将来の可能性を残すこと」の両方につながる治療を選べる可能性が広がります。それを実現していくことが、我々医療者の大切な役割だと考えています。

日々の小さなサインを見逃さないよう、自分の身体のリズムを知ることから

――最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします

受診をためらっている方へまずお伝えしたいのは、「婦人科のがんは、決して治らない病気ではない」ということです。多くの方が経験する病気だからこそ、現在では治療法もしっかりと確立されています。必要以上に恐れることなく、まずは相談に来ていただきたいですね。

また、日頃からご自身の月経の周期を把握しておくことをおすすめします。今はスマートフォンなどで簡単に管理できますのでぜひ習慣にしていただきたいです。

自分のリズムを把握していれば、それ以外の時期の出血を「不正出血」だとすぐに自覚できます。また、「この時は生理が重かった」といった些細なことでも手帳やアプリに書き留めておくと、いざという時の診断にとても役立ちます。

自分の身体のリズムを知っておくことは、生活を豊かにする上でもプラスになるはずです。日々の小さなサインを大切にしていただければと思います。

――先生ご自身のリフレッシュ方法を教えてください

リフレッシュ方法は、やはり昔からの趣味である天体観測ですね。それ以外にも、歌うことや体を動かすことも好きです。

最近はなかなか歌いに行く機会がないので、もっぱら家で歌っているのですが、これが家族にはあまり評判がよくなくてですね。特にお風呂で歌うと声がよく響くらしく、たびたび“ご意見”をいただくこともあります。

天体観測については、現在は海外の天文台を借りて行っています。望遠鏡を直接覗くというより、デジタルカメラで撮影したデータを自分で解析するスタイルです。実はこれまでに新しい星をいくつか発見したこともあって、医師としてよりも、天文学の分野でのほうが実は有名だったりします。

昔、憧れていた「医師として働きながら趣味の天文学にも取り組む」というかたちを、今こうして実現できているのは、とてもありがたいことだと感じています。

(取材:2026年3月)


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