「対話」を通じて、働く女性を痛みや生きづらさから解放。「marbleMe」の挑戦【BIPROGY 鬼武 辰憲】
目次
多様化する時代の中で様々な新規事業に取り組む
ー鬼武さんのこれまでのキャリアや経歴について教えてください
私は長年、新規事業開発に携わってきました。
ヘルスケアやウェルネス関連の事業を中心に、最近はジェンダーやダイバーシティ関連の仕事も行なっています。スタートアップの経営、ゼロイチからの事業立ち上げ、ジョイントベンチャー設立やM&A、大企業との協業など、様々な経験を複数の会社で積み重ねてきています。
今、世の中は多様性の時代で、正解がありません。事業やサービスそのものも、継続して同じことを続ける時代ではなく、常に新しいものが生まれています。新規事業開発を専門にしながら様々なサービスやプロダクトの誕生に関わっていることはとてもラッキーだと思っています。
ーなるほど!これまでにもいろんなサービスだったり、プロダクトを立ち上げては広めることを繰り返して来られたのですね
立ち上げて広めるだけでなく、既存のものを別の会社に投資・買収したり、アライアンスを組んだり、様々なパターンで事業を成長させてきました。
そもそものキャリアのスタートは営業です。コンサルという名の営業でしたね(笑)。
既存のサービスを売るという立ち位置でしたが、新しいサービスを扱う部署だったので、新規事業の要素はありました。その時の経験が今につながっていると思います。
同じ悩みを持つ人と「共感」「対話」を通して課題解決へ
ーではあらためて「marbleMe」について伺います。「marbleMe」はどのようなサービスなのでしょうか
「marbleMe」は、同じような悩みを抱える人たちとオンライン上で「対話」することで、気づきや課題解決のヒントをもらえる企業横断型のコミュニティサービスです。
日々のちょっとした悩みごとや話してみたいことを書き込むと、その話題に興味を持った人がチャット形式で参加するトークルーム、専門家にアドバイスを求められる質問箱、さらには専門家へのオンライン相談などを提供しています。
また、ウェビナー形式のライブトークや少人数制の座談会といったイベントも開催しており、専門家のトークを聞いたり同じ悩みを持つ人たちとリアルタイムで話すこともできます。
ー“働く女性のためのデジタルサードプレイス”として、匿名でコミュニケーションを取りながら行動や考え方を変えていくという、今までにないサービスだと感じました。女性にフォーカスした理由や、着想のきっかけ、開発への想いを教えてください
そもそも三井グループの研究所である「三井業際研究所」の活動の一環で、女性の健康問題に関する事業構想プロジェクトとしてスタートしました。
メンバーの中にちょうど更年期の症状で仕事のパフォーマンスが落ちていることに悩んでいる女性がいて、その人をどう支援していくかという議論が始まったのがきっかけです。
「私は更年期障害です」という人には普段の生活の中ではなかなか会わないんですけど、たまたまそういう人に出会える機会があり、多くの気づきがありました。
更年期の症状を含め、女性にはいわゆる「不定愁訴(ふていしゅうそ)」という、原因がはっきりわからないけれどなんとなく体調が悪い状態があること、女性は我慢しながら仕事をしていること、当事者だけが悩んでいることなど、多くの働く女性が共通の悩みを抱えていることがわかり、解決に向けてどうにかできないかと考えるようになりました。
ーそこから、どのように現在のサービスの形になっていったのでしょうか
そうですね。たとえばこれまで企業の中では、社員のヘルスリテラシーを高めるためにと、更年期に関するセミナーや研修を実施することも多かったのですが、本当に効果があるのか懐疑的でした。
eラーニングや研修を受けても、日常生活でどう役に立ったのか、効果があったのか分からない。企業は多額の費用を払っているのに、効果測定が難しい。
一方で、更年期障害の女性をはじめとする様々な人の話を聞いていく中で、悩みや課題は千差万別で、パーソナライズされた支援が必要だと感じました。キャリア、家庭、人間関係など、様々な悩みが複雑に絡み合っていて、解決のゴールは一つではない。画一的な研修やセミナーで解決できるはずがないんです。
そこで、同じ課題を抱える人をマッチングさせる「セルフヘルプ(自助)」の考え方を採用しました。同じ悩みを持つ人と「共感」し「対話」を通して課題を特定し解決していく。これが効果的で価値があると気づきました。
実証実験として70社、約100人規模で4回実施し、1年半をかけてサービスを立ち上げました。
また、当事者への価値提供はもちろんですが、雇用主である企業向けのビジネスモデルとして提供する以上、その企業に経営上の価値を示す必要があります。marbleMeを従業員が利用することで、労働生産性が高まり、働きやすさが高まっていくという部分をを可視化してレポートにする。企業としては、その経緯や結果を人事施策や人材計画に反映できるよう設計をしています。
ー開発の中で、大変だったことはありますか
チームメンバーは営業やマーケティング等のそれぞれの専門分野には秀でていますが、新規事業は素人です。新規事業には多く携わってきた私も、ジェンダーの専門家ではありません。
新規事業は、常に分からないことだらけの中、それをビジネスにしていくのが仕事ですが、初めてのことばかりだとやっぱり戸惑いますよね。
コミュニティでいくべきか、セミナー形式がいいのか、いろいろなやり方や組み立て方があってどれが正解かなんて分からない。メンバーと議論を重ねて方向性を決めていきますが、当然時間もかかるし、準備や勉強も必要になります。そうすると、どんどん新規事業の立ち上げがしんどくなってくるんです。
その結果、パフォーマンスが出なかったり、納期が遅れたり、生産性が落ちたり… 新規事業だとよくあることですが、それを乗り越えられないメンバーもいたりして。周りがフォローに入ったりして大変でした。
あと、大企業あるあるでどれだけ仕事が残ってても5時半きっかりに帰る人もいて、メンバー間のモチベーションやマインドセット、仕事の進め方の違いを調整しながらプロジェクトを推進するのが一番大変でしたね。
「対話」を軸に、共感し、支え合う場を提供
ーサービスをローンチされて1年ほど経ちますが、やってて良かった、うれしかったエピソードはありますか
それはもうめちゃくちゃたくさんありますよ!シンプルに「やってて良かったですか?」と聞かれたら「ものすごく良かった!!」と答えると思っています。
特に印象的なエピソードだと、marbleMeの実証実験に協力してくれたユーザーが、サービスを気に入りすぎて当社に転職してきたこととかですかね。
他には、ユーザーがサービス内で「産後なぜか涙が止まらない、私はおかしいのではないか」という書き込みをした際、似た経験を持つユーザーから「私もそうでした」「わかります」といった共感や励ましのコメントが寄せられ、自己肯定感の向上に繋がったという事例もありました。こういったユーザー同士の繋がりや変化を目の当たりにした時、このサービスをやっていて本当に良かったと感じます。
ーmarbleMeでは当事者同士の「対話」の中で、気持ちや行動が変わっていくっていうところがすごくいい効果を生んでるのかなと思っています
そうですね。1人で考えているだけではなかなか新たな気づきを得ることは難しいと思っています。
普段の生活の中でも、誰かと話している中で、思いもよらないアイデアが生まれたり、新たな視点に気づいたりする瞬間ってありますよね。1分前には思いつかなかったことが、1分後には自分の言葉のようにスラスラ話せているみたいな。
考える時と話す時は、脳の違うところを使っているらしく、誰かと話すことで自分の言葉のように話せていくっていうのは不思議だしおもしろいと感じています。
marbleMeでは、この「対話」こそが重要だと考えていて、「対話」を軸に、同じ課題を持つ女性たちが繋がり、共感し、支え合う場を提供しています。
「marbleMe」を社会課題解決のスタンダードツールへ
ーmarbleMeの今後の展望について教えてください。
そうですね、フェムテックなどを含めた社会課題の解決に取り組んでる事業って、社会的にも重要視はされていて、ユーザーからも「ありがとう!」って言ってもらえることが多いですが、それをどうやってお金に繋げるかというところでみんな苦労してるんですよね。
投資家からも「フェムテックって儲かるの?」みたいな感じで、なかなか理解してもらえない。求められてるのに、お金にならない。このギャップに悩んでる人や企業が多いと感じています。
marbleMeに関わらずですが、まずはこの状況を変えたいと思っています。
数十年前までは日本では「飲料水」なんてお金を出して買わなかったけど、今は当たり前のように売られていますよね。それと同じで、今は「そんなことして何になるの?」と思われてる活動も、いずれ価値が認められて、経済価値に変わる瞬間が来るはずだと信じています。marbleMeは、その時の中心的な存在でありたいと思っています。
marbleMeは、今は女性やジェンダー領域が中心ですが、今後は教育や貧困、環境問題など、他の分野にも広げていきたいと思っています。
将来的に社会課題を解決する時に「コミュニティ」というアプローチがスタンダードになっていて、marbleMe を使えば、誰でも簡単にコミュニティを作れる。そんな風に、社会課題解決のスタンダードツールとして使ってもらえるようなプラットフォームを目指しています。
悩みは人それぞれ、だけど1人ではない。
ーこの記事を読んでいる方へメッセージをお願いします
ひとことで”悩み”といっても、その時その人で全然違うことが起こっています。「みんな同じだよ」と安易にお伝えすることはしませんが、1人ではないということは伝えたいですね。全く同じではなくても、その悩みに共感できる人は必ずいます。
人生にはアップダウンがあって、良いことも悪いことも長くは続きません。
今しんどくてつらい状況でも、すぐに良いことが来るかもしれない。逆に、今が順調でも、いつか落ち込む時が来るかもしれない。どちらにしても長くは続かないので、あまり思い詰めずに、目の前のことに前向きに取り組んでほしいですね。
ー鬼武さんのリフレッシュ方法を教えてください
運動したり、友達と飲みに行ったり、子供と遊んだり、好きな映画やテレビを見たり、ごく普通のことですね(笑)。そもそもモヤモヤすること自体少ないです。
運動はサッカーを学生の頃からやっていて、全国大会で3位になったり、ブラジル留学をしたこともあります。今はパパ友とちょっと集まってわいわいしながら楽しんでいます。
(取材:2024年11月)
本記事は、取材時の情報に基づき作成しています。各種名称や経歴などは現在と異なる場合があります。時間の経過による変化があることをご了承ください。